●公約に掲げた経済政策を実現するも、収支のメドは立っていない
公約は実現するのがトランプ大統領の方針なので、まず法人税を大幅に下げました。今までのアメリカの法人税は非常に高い水準にありました。30パーセントだった法人税を、いきなり21パーセントまで落とし、低税率国にしました。減税規模が10年で1.5兆ドルということで、日本円にして1年で150兆円ですからすごいですね。この政策は、2019年には非常にアメリカ経済を刺激しました。
ただ、その反動として、2兆ドル規模の財源不足とのことです。この見込みに対して、減税によって経済成長するので、その分でカバーするという触れ込みでした。しかし、その経済成長に関しては、政府は過大な予測を打ち出しています。だから無理ではないでしょうか。
そもそも完全雇用状態の経済での減税は、経済学の原則から見ると、まるで逆の対策なのです。デフレギャップがあるから減税が効くのであって、デフレギャップのないときに減税しても、インフレになるかスタグフレーションになるかで、どちらにせよツケは労働者にめぐってきます。おそらく、トランプ大統領からしてみればそれでも構わないと思っているのでしょう。今、株式市場を刺激すれば、おそらくあと5年もすれば政治の舞台から退場するので、野となれ山となれという心境なのだろうと思います。
それからインフラ投資にも積極的です。ホワイトハウスは2018年に1兆ドル投資するといいましたが、100兆円規模です。確かにアメリカでは、ハイウェイなど至るところがボロボロです。ですので、インフラ投資自体は必要なのです。そして、こうした動きを受けて、株式市場が急速にヒートアップします。民主党も大きな政府が好きなので、結構こうした動きに乗っているのです。つまり、結局2兆ドル程度の赤字が見込まれるのですが、誰が負担するのでしょうか。何年か経つと、結局勤労者が負担することになって、「やっぱりね」となるのですが、アメリカ人は気がついていないでしょう。
3つ目の経済政策は、関税をかけることです。2018年3月に、安全保障上の危険を理由に、鉄鋼とアルミニウムを輸出している国々に高率の関税をかけると宣言しました。日本も韓国もヨーロッパもこれらの国の中に含まれますが、これらは全て同盟国です。トランプ大統領にとって、同盟がどういう意味を持つのか、よく分からないのではないでしょうか。中国は補助金や技術移転関連で許しがたいことをやっているから、より徹底的に関税をかけています。
それからトランプ大統領は、金融政策について信じがたいとんでもないことをいっています。以前ジャネット・イエレン氏という連邦準備制度理事会の議長がいました。国際的にも大変評価が高く、アメリカの出口戦略をきっちり管理していた人です。なぜかトランプ大統領から圧力があり、イエレン氏は辞職しました。そして、経済の専門ではない、単なる弁護士だった理事のジェローム・パウエル氏を起用しました。パウエル氏はトランプ大統領に恩義があるので、トランプ大統領の代弁者になるのではないかと、おそらくトランプ大統領は思っていたでしょう。しかし、彼は案外まともな人で、アメリカ経済はどんどん好況になっていくので、少しセーブしたほうが良いと、ブレーキを踏み始めたのです。彼は着任してから、8回も徐々に金利を上げていきました。すると、トランプ大統領はこれに反発しました、金利は下げるものだというのです。
何をいっているのでしょうか。経済のアップ&ダウンを見ながら、金利調整をするのが常識なのです。しかも、かつてヒトラーが中央銀行に口を出して悪い結果をもたらしたので、世界中の近代国家では金融は絶対独立というのが鉄則なのです。トランプ大統領は、とにかく「低金利にするように」といいます。
少し私の言い方はきついようですが、日本の新聞がこういう書き方をしないだけです。ウォールストリートジャーナルはさすがに書きませんが、フィナンシャルタイムズなどのほかの国の新聞の多くは、同じように書いています。
●国際協調を徹底的に排除していくトランプ大統領
トランプ大統領は、公約の一部として、さまざまな対外政策を取り始めました。大統領になってから、まず移民と入国制限に着手しました。イスラム移民やメキシコからの移民排除に注力しています。排除するために壁をつくるといっているのですが、なぜ壁かというと選挙民にわかりやすいのです。トランプ大統領の考え方は非常にわかりやすいと思います。そして、入国審査を非常に厳格化しました。
実はアメリカは、もともと移民によって発展した国です。世界各国から異質な人が入ってきて切磋琢磨した結果として、今日のような立派な国になったのです。しかし、入国審査を厳しくすると、良い学生もアメリカ...