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今後の世界情勢は米中露の3国関係を基礎に考えるべき

激変しつつある世界―その地政学的分析(3)3つの分析軸

中西輝政
京都大学名誉教授/歴史学者/国際政治学者
情報・テキスト
歴史学者で京都大学名誉教授の中西輝政氏は、今後の世界情勢は、米中露の3国関係を基礎として考えるべきだと主張する。予想に反して米中は対立せず、むしろ歩み寄り、中露は疑似同盟関係を続けるだろう。また米露は歩み寄らず、対立関係が続くはずだ。こうした情勢の下では覇権交替が急速に進みかねない。(全10話中第3話)
時間:09:43
収録日:2017/05/16
追加日:2017/12/26
カテゴリー:
≪全文≫

●世界情勢は、米中露の関係を一番の基礎として考える


質問 アメリカは今後、中国と潜在的に敵対し続けるのか、それとも、手を握ることも視野に入れていくのでしょうか。

中西 米中関係がどちらに転ぶかということが、世界史の一番の分かれ道でしょう。日本の運命も、非常に大きな影響を受けるはずです。差し当たり、ドナルド・トランプ政権の対中政策を見てみましょう。2016年11月、トランプ氏が大統領選挙に勝利した時、日本のマスコミメディアでは、米中関係は今後、非常に悪化していくだろうと言われていました。書店に行けば、トランプ政権が対中強硬政策に出て、米中激突もあり得ると主張する本も、山積みになっていました。他方、トランプ政権はロシアと接近し、トランプ外交は親露・反中へと向かっていくと考えられていたのです。こうした一般的な予想が広がっていたのですが、しかしふたを開けてみたら、違った結果が明らかになってきています。

 私は、2017年の初め頃から主張していたのですが、今後4、5年の世界情勢を見るときに大事なことは、米中露の3国の大国関係を一番の基礎として考えるということです。その際、3つの仮説を提示しました。これは様々な媒体で発表したものです。


●中露の関係は、アメリカの力次第で変わる


 第1に、言われているような米中激突は起こりません。米中はむしろ、決定的な対立を決して起こさないでしょう。両方が必ず歩み寄ってくることになるはずです。第2に、いくらくさびを打ち込もうとしても、中露の関係は離れません。中露の疑似同盟関係はずっと続くでしょう。第3に、米露は決して仲良くなりません。米露対立も、ずっと続いていくでしょう。こうしたことは、3国の力関係を見れば分かることです。

 第1の分析軸は、米中は決定的に対立することはない、ということです。それゆえ、米中が首脳会談をしても、落としどころを見つけて、はっきりと合意できます。

 第2に、中露は対立せず、むしろ関係は続いていくでしょう。外見的には中露は、ある意味で同盟国あるいは協商国関係にあります。非常に親密なパートナーのように見える関係を、これからも続けていくでしょう。したがって、いくら安倍晋三首相がウラジーミル・プーチン大統領と何度も会って、一生懸命、中露の間にくさびを打ち込み、ロシアを日本側へと引き寄せようとしても、うまくいかないでしょう。世界3極構造といった言い方もできるでしょうが、こうしたことは将来的なすう勢なのです。

 現状として、アメリカはまだやはり非常に強い力を持っており、1極体制の後半戦は続いています。ですから、アメリカが十分に強い間は、中露は離れないでしょう。これは単純な力学です。非常にドライな中露ですから、アメリカが弱くなると対立するに決まっていますが、それはアメリカの力次第なのです。非常に無機質な力関係が支配する、マキャベリの世界です。

 第3に、米露は対立を続けざるを得ないでしょう。アメリカが絶対的な親近感をもって、親露になることはあり得ません。それははっきりしています。アメリカの根本国益、例えばNATO(北大西洋条約機構)について考えれば分かります。ウクライナやクリミアでこれほどの問題を抱えているのに、それを無視して、トランプ大統領が本当にロシアと手を結べば、ヨーロッパの国は皆、アメリカから離れていくでしょう。アメリカにはもう頼れない、となります。そうなれば、NATOは完全に崩壊するでしょう。NATOあっての大国アメリカなのです。また、私たち日本人にとっても、NATOあっての日米安保です。NATOがないのに日米安保だけ続くということはあり得ません。アメリカ人は皆、NATOもなくなったのに、なぜ日米安保を続ける必要があるのか、と言うでしょう。したがって、NATOの将来は実は、日本に直結する問題です。こうした重要性を持つのが、米露関係です。


●このままの状態が続けば、覇権交替が非常に急速に進む


 これらの3つの軸をはっきりと押さえて、世界情勢の基礎を見ていかないといけません。さらに、この3つの軸から出てくる1つの結論があります。米中は決定的に対立しません。中国は良いところ取りをして、アメリカともそこそこうまくやっていくでしょう。また、中露は離れず、米露は対立を続けます。したがって、中国はどことも対立していません。言い換えれば、中国は一番得な役回りになってくるのです。反対に、アメリカが一番損な役回りをします。アメリカを支えるのは同盟国だけで、他の2つの大国は疑似パートナーになるのですから。

 要するに、アメリカはこうした世界情勢の下では、どんどん力が衰退していく、損な役回りを担うことになるのです。中国は座していれば、自力を付けていく、経済力を伸ばしていく、そうした環境を確保できます。そうやって、ますます力を伸...
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