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経済格差で広がる極右の台頭、反皇室意識拡大の可能性

激変しつつある世界―その地政学的分析(8)格差と皇室

中西輝政
京都大学名誉教授/歴史学者/国際政治学者
情報・テキスト
歴史学者で京都大学名誉教授の中西輝政氏は、経済格差が是正されなければ、日本でも極右が台頭する可能性があると指摘する。さらに、国民の生活苦が続けば、戦後直後によく見られた反皇室意識ももう一度広がっていく可能性がある。極右の台頭を防ぎ、皇室の伝統を保つためには、財政の再建と経済の回復が優先国策になる。(全10話中第8話)
時間:16:03
収録日:2017/05/16
追加日:2018/01/14
タグ:
≪全文≫

●日本は他の国よりも極右が出てくる可能性が高い


質問 格差問題が深刻になれば、極右が一時期支持を集めるかもしれないというのが、先生の見立てでした。日本についてもこの見立ては当てはまるでしょうか。

中西 その可能性は十分あります。短期であっても極右勢力が出てくるということは、やはり怖いことです。しかも日本の場合、貧しくても平等が好ましいという価値観を持って、何百年という歴史を経てきた国です。みんなと同じということが、特別に価値感として持たれています。格差が今後も解消されなければ、極右が出てくる可能性は、実は他の国よりも高くなるでしょう。

 日本では、個人主義よりも集団的な絆が重要視されます。みんな平等で同じものを食べているからこそ、連帯感が生まれて幸せに感じます。こうした国民性はまだなくなってはいないでしょう。この国民性を前提とすれば、格差が解消されない限り、極右が「こんな現実、認められるか」といって、破壊的な動きに走る可能性は十分にあります。どの勢力がそれを担うのかという予言はできませんが、理論的な可能性は非常に高いといえます。


●日本の優先国策は財政の再建、経済の再生だ


 今の格差の状況は、日本人にとって特にきつく感じられます。ただ、幸いなことに日本の指導者・エリートは庶民の気持ちをよく分かっているといいますか、そうした人がエリートになっているケースが多いでしょう。他の国の場合、指導者・エリートは下の階層の人々と付き合ったこともないし、彼らのことを考えてみたこともないということがあります。つまり、かけ離れているのです。移民などがいて民族が違うこともあり、彼らがどうなろうと知ったことかと、そういう姿勢なのです。

 よって日本の場合、格差に気付いてそれを是正しようとする動きは、スムーズに出てくるのではないでしょうか。さほど大きな抵抗は生じないかもしれません。ただし、経済に関してですが、ない袖は振れません。したがって、日本の優先国策は財政の再建、経済の再生ということになります。この状況がずるずると長引けば、極右の台頭する危険性が非常に高くなるということを認識すべきです。


●オリンピックでは埋められない大きな溝ができている


質問 天皇陛下のご退位や、安倍晋三政権の後続などを考えると、今後は秩序や価値観が揺らぐ時代になるのではないでしょうか。

中西 私の年になりますと、正直に言って、若い世代の価値観や人生観、社会意識は理解できません。彼らの怒りや、やけっぱちな気持ちはよく分かりません。「先のことなんか考えられない、どうなってもいいんだ。何かでぶっつぶしてほしい」。こうした激しい反応がもろに出てくること、これが起こり得るワーストのシナリオです。

 私たちの若い頃であれば、マルクスや革命といった受け皿がありました。間違っていたにせよ、そうした理論があったのです。ところが今、日本人の心が大きく流動する中で、何が出てくるか分かりません。ある種のつり橋を渡っていくような時期が、2、3年の間に来るだろうと思います。

 2020年の東京オリンピック・パラリンピックが、日本人が連帯感を持つきっかけになればいいと思いますが、とても前回の東京オリンピックのような、国民こぞってのスポーツの祭典にはならないでしょう。安倍晋三首相や小池百合子都知事を中心に、関係者の方は一生懸命、取り組んでいますが、オリンピック・パラリンピックに対する日本人の気持ちは、もう白けているという感じも受けます。それよりも生活や何かの方が重要だ、という気分になっているということです。オリンピックという昔ながらの装置・工夫では、とても埋められない大きな溝が日本社会の中にできてしまっているようなのです。


●イギリス女王は好きなこと言うからこそ人気がある


 天皇陛下のご退位について、国民はごくごく素直に「ご退位を望まれるならそうしていただければいい」と感じています。国民の意向と陛下のお気持ちとは一致していて、私の感覚に照らしていえば、これこそ大昔の人が言った「国体の精華」だと感じます。君民一体、心が通じ合う状態です。

 ただし現在、天皇陛下は政治の権能を持っていらっしゃいません。江戸時代なら、幕府に物申して、「もっと庶民に米を分けてやれ」と天皇陛下がおっしゃると、徳川将軍も無視できなかったわけです。しかし、今は象徴天皇です。したがって、むしろ危険なのは、現状を変えてほしいという庶民の願いを政治が聞き届けなければ、皇室や天皇制に対する国民の心が離れていく、ということです。そうなると、天皇陛下に向けて陳情しても、どうしようもないことと分かるからです。

 私は、マーガレット・サッチャー首相が出てきた頃に、たまたまイギリスにいたことがありました。当時、女王とサッ...
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