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アメリカ社会のリーダー層における三つどもえの構造

激変しつつある世界―その地政学的分析(6)アメリカ社会

中西輝政
京都大学名誉教授/歴史学者/国際政治学者
概要・テキスト
歴史学者で京都大学名誉教授の中西輝政氏によれば、アメリカ社会にはグローバリゼーションを巡って三つどもえの構造が存在する。トランプ大統領を支持したラストベルトの労働者はアンチグローバリスト、ヒラリー・クリントン氏に代表される現状維持派、そしてトランプ政権で徐々に力を得つつあるネオグローバリストだ。(全10話中第6話)
≪全文≫

●アメリカ社会は三つどもえの構造になっている


 私は2016年末に『日本人として知っておきたい「世界激変」の行方』(PHP新書)という本を出したのですが、そこで今回の話に関連する大事な話を第1章に書きました。この2、30年間、ずっと続いてきた経済のグローバル化はもうすでに現実となり、後戻りしようのない形で世界を変えてきました。グローバリゼーションというリアリティは、もう動かないと思います。その上で、アメリカの大統領選挙ではっきり表れたのは、社会のリーダー層が三つどもえの構造になっているということです。すなわち、グローバリゼーションをめぐって、3つの立場があるのです。

 第1に、アンチグローバリストです。ラストベルト地帯などで、鉄鋼や石炭等の重厚長大産業に従事していたアメリカの中産階級の労働者たちは、グローバル化の影響でみんな職を失いました。彼らはものすごく不満をため込んでおり、大挙してドナルド・トランプ氏に投票したと言われています。

 第2に、ヒラリー・クリントン氏を代表とする、これまでのグローバル化をさらに進める、あるいはせいぜい現状を維持するという立場です。どちらかといえばアメリカの場合、経済界の主流もメディアの主流もこの立場を取っていました。しかし、彼らはグローバリストとして、右のトランプ陣営と左のバーニー・サンダース陣営に、挟み撃ちに遭ったのです。

 第3ですが、実はアメリカの指導層の中には分裂がありました。それは、グローバル化をむしろもっと積極的に進めていくべきだとする立場です。世界の秩序がどうなろうが、そんなことには関心がなく、むしろもっと利潤を上げることを追求すべきだ、という考え方です。サブプライム危機が起こり、リーマンショックになって、2008年には金融が規制されました。しかし、こうした金融規制を撤廃し、2008年以前の、規制のもっと緩い時代、あるいは1920年代のような規制のほとんどなかった時代に戻るべきだ、と主張しています。そうすればアメリカの経済は一気に活性化して、世界のお金をアメリカに集めることができ、一大投資が進むだろうというのです。これは、いわゆるヘッジファンダー(ヘッジファンドを動かしている人たち)、特に移民系の人に多かった主張です。

 具体的な人物でいえば、今、トランプ政権の一番の黒幕の一人といわれている、ジョン・ポールソン氏がいます。彼は...
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