●同盟の損得をドライに計算する時代が、トランプ時代だ
米中・中露・米露という3つの軸の呪縛から逃れようとするのであれば、アメリカには解が1つしかありません。これによって、中露両国とも仲良くしつつ、かつ中露の間を分断し、しかもアメリカは出費を一番少なくできます。それは、同盟国を切り落とすことです。同盟国を抱えているから不利になるんです。しかし同時に、同盟国に言うことを聞かせられるということが、アメリカの国益になっていることも否めません。
このように、ギリギリに追い込まれたアメリカが、同盟国とのしがらみが損か得かというドライな計算をする時代が、トランプ時代なのです。これはイギリスで言えば、20世紀の初め頃です。イギリスは当時、日本と同盟を結び、何とか苦境を逃れようとし始めました。そうなればドライになるし、なりふり構わなくなっていきます。トランプ時代というのは、そうした時代の始まりなのです。
●日本も自分の足で立ち、有利な周辺環境づくりをすべきだ
日英同盟を結んだ頃のイギリスは、もはや積年の世界覇権国の余裕が全くなくなっていました。しかも、本国に近い海が、ドイツ海軍に押さえられるかもしれないという状況でした。急いで世界の軍艦をイギリス近海に持ち帰ってくる必要がありました。しかし、そうすればアジアはがら空きになって、ロシアが進出してくる困った事態になりかねません。
そこで、日本に目を付けたのです。ちょうどここに元気のいい、若い国がいる。しかも、海軍をつくっているらしい。これは利用しない手はない、というわけです。ただし、やはり相当のジレンマがありました。日本は有色人種の国で、しかも30年ほど前までは刀を差し、イギリス人を切り殺したこともあったのです。そうした国を対等な同盟国として扱うのは、イギリス人にとって非常に大きな心理的抵抗がありました。しかし、なりふり構っていられなくなり、心理的抵抗を乗り越えたのです。
もちろん子細に検討すれば、あの同盟は日本を助けるという趣旨ではないし、いざとなったらイギリスが参戦するという条件も、かなりネグレクトされていました。したがって、当時の日本人も、イギリスには裏切られる、見捨てられるとはっきり分かっていたのです。しかし、こうしたことを承知の上で日本人は日英同盟を結びました。だからこそ、ものすごい覚悟で日露戦争を行ったのです。
当時の外交官には、小村寿太郎のような人物がいました。彼はハーバードロースクールをトップで卒業して、ウォール街で弁護士をしていた人です。アメリカ人やイギリス人の発想を、腹の底までよく分かった人ですから、最後は日本が独力でやるしかないと理解していたでしょう。伊藤博文でさえ、「もういよいよとなったら、自分は浜辺へ出て竹やりででも」などと言っていました。本土決戦しかないという、そこまでの覚悟を持って乗り出したのが日英同盟だったのです。
大国というものは同盟国を裏切るものです。これが歴史の教えることだと、日本人は胸に刻んでおくべきです。日米同盟はもちろん大事です。大事にしなければいけないのですが、それでもやはりこれだけ大きな世界史の変動期に入ってきて、トランプ政権のアメリカという姿が見えてきたのですから、自助努力・自主防衛を考える必要があります。日本も自分の足で立ち、外交能力を高めて有利な周辺環境づくりを行わなければいけません。外交も同盟も大切ですが、しかし自主的な努力がさらに求められるでしょう。
●「パックス見せかけ」では、全てが見せかけになる
質問 アメリカ、ロシア、そしてヨーロッパは今後、どのような関係になっていくでしょうか。
中西 今の世界は、やはり米中露という3大国が、基本的な力関係のレベルで世界の帰すうを握っています。とはいえ、ロシアは大して力はありません。GDPでは、日本よりはるかに小さく、イタリア並みの国です。ウクライナ問題に関して、2014年からEUによる経済制裁が始まっていますが、石油の価格が少し下がっただけでも、ロシア経済はガタガタになってしまいます。こうしたところから、ロシアは本当にそんなに強い大国だと言えるのか、という疑問も出てくるでしょう。
もっともな疑問ですが、しかし現代という時代は、ある意味では見せかけが非常に大事です。私はこれを「パックス見せかけ(見せかけの平和)」と呼んでいます。全てが見せかけになっているのです。ドナルド・トランプ大統領も見せかけを重視します。シリアにミサイルを撃ち込んですごんでみたり、アフガンで大きい爆弾を爆発させたりしています。あるいは、空母カール・ヴィンソンを朝鮮半島に持ってきてすごんでいますが、これもやはり見せかけです。北朝鮮相手に核戦争をやろうだなんて、いくらトランプ大統領でも、そこまで狂気じ...