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ロシアの世界戦略とアメリカの戦略的コミュニケーション

激変しつつある世界―その地政学的分析(7)米露の戦略

中西輝政
京都大学名誉教授/歴史学者/国際政治学者
概要・テキスト
歴史学者で京都大学名誉教授の中西輝政氏によれば、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領はヒューミントやサイバー攻撃などを駆使して、アメリカ・フランスの大統領選挙に介入してきた。他方、アメリカも戦略的コミュニケーション政策を用いて、メディアを操作しようとしている。「パックス見せかけ」時代の情報戦を解説する。(全10話中第7話)
時間:11:40
収録日:2017/05/16
追加日:2018/01/13
カテゴリー:
≪全文≫

●ロシアに有利な世界をつくろうとするプーチミンテルン


質問 ロシアがトランプ大統領就任を後押しし、ヨーロッパの選挙にも影響を与えているのではないか、という向きがある。ロシア問題についてどうお考えでしょうか。

中西 ウラジーミル・プーチン大統領のロシアが、各国の政治に対して隠密の部隊や非合法な手段を用いて外から影響を与え、ロシアに有利な世界をつくろうとすること、これを私は「プーチミンテルン」と呼んでいます。かつて共産主義の時代には、ソ連が中心になって、世界中に共産主義革命を引き起こすための秘密工作を行う、コミンテルンという組織がありました。ヨーロッパ諸国や日本、アメリカといった自由主義の国で、革命運動を行っていたわけです。これのプーチン大統領版が、プーチミンテルンです。これが今世界に広がっているのではないかと懸念されます。

 例えばアメリカの大統領選挙でも、ヒラリー・クリントン陣営の民主党に対してサイバー攻撃を行い、彼女のメールを盗みました。ヒラリー候補に非常に不利になる情報を暴露するという狙いがあり、それをどうやらトランプ陣営は知っていたのではないか、選挙中にロシアと関係を持っていたのではないかと、疑われています。

 2017年フランス大統領選挙でも、国民戦線のマリーヌ・ルペン候補は完全にプーチン氏の手の内にありました。やはりプーチン氏としては、ルペンを勝たせたいわけです。ロシアなどの銀行から大量に融資を受けて、国民戦線は大躍進を果たしました。他方、エマニュエル・マクロン候補の陣営には、サイバー攻撃やいわゆるヒューミント(人間を使った秘密工作)が行われました。こうしたことが暴露され、フランスの新聞が連日報じていましたし、英米の新聞でも大きく取り上げられています。

 ただし、そこはさすがのフランスです。アメリカの例で分かっていたからかもしれませんが、あらかじめ防諜機関がしっかりガードをして、プーチミンテルンからの工作や攻撃の大半を跳ね返したと言われています。結果的に、2017年の大統領選挙でマクロン陣営はダメージを受けませんでした。フランスのインテリジェンスが力を発揮したのでしょう。フランスは、情報を取ってくるのはあまり得意ではありませんが、攻撃を防ぐのは得意です。昔からフランス警察といえば、世界に冠たるジョゼフ・フーシェ(19世紀フランスの政治家。近代警察...
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