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一貫性と戦略性を欠くトランプの中東戦略

深刻な中東情勢(3)トランプ大統領の戦略と反発

山内昌之
東京大学名誉教授/歴史学者/武蔵野大学国際総合研究所客員教授
概要・テキスト
トランプ大統領による中東政策では、何が重要で何が重要でないかが目くらましされているようだが、これは英語の"wag the dog"、日本語でいうところの「本末転倒」だと山内昌之氏は指摘する。確固たる政治戦略と軍事作戦をもつロシアやイランを相手に、トランプ外交はこの先どんな道を歩むのだろうか。(全3話中第3話)
時間:12:01
収録日:2018/11/29
追加日:2019/02/05
カテゴリー:
≪全文≫

●オバマ氏の「逆」を行くのがトランプ政権の道?


 皆さん、こんにちは。

 「トランプ大統領と中東」と述べた場合、トランプ氏の中東政策は、"wag the dog"という英語の言い回しを思い出させるところがあります。日本語では「本末転倒」とでも言いましょうか。重要でないことを重要だと見せかけ、重要なことをさも重要でないように見せるようなときに"wag the dog"という言葉が使われます。そのレトリックは、まさにドナルド・トランプ大統領特有のものです。

 シリアにおける中東の複合危機の本質は、ロシアやイランと比べて、アメリカが曲がりなりにも公平な調停者として民主的に振る舞ってきたことにゆえんします。ロシアやイランが持つ政略と作戦は、その内容な本質において決していいものではないとはいえ、彼らはそれなりの政治戦略と軍事作戦を結合させて中東の再編政策を練っています。プーチン大統領にいたっては妥協の余地なく、まっすぐにインテグリティ(誠意)を持って取り組んでいるのです。

 アメリカの場合、トランプ大統領にはバラク・オバマ大統領との政策の不一致があり、今日、オバマ大統領のデザインをそのまま継承しているわけではありません。むしろトランプ大統領の特徴は、一つの頭文字で言うならば「R」、"reversal(あべこべ)"。すなわちオバマ大統領となんでもあべこべのことをするのが特徴でした。

 しかし、トランプ大統領のこうした方向は、アメリカ国内において必ずしも批判ばかりされているとは限らず、この間の中間選挙においても下院では敗色濃厚でしたが、上院ではそれなりに彼の言うところの「勝利」により過半数を占めることになったわけです。


●トランプ大統領の強い支持基盤「宗教右派」


 これはトランプ大統領が、とりわけ「宗教右派」に強い基盤を持っているためです。市民に根強いプロテスタントの中でも、キリスト教福音派はアメリカ国民の約4分の1を占めているとされます。彼らがいわゆる宗教右派で、聖書に書かれていることは、伝承や神話にさかのぼる余地なく、さまざまな奇跡やイエスの言行もすべて歴史的事実と解釈しなければならないという立場で信仰を深めています。

 トランプ大統領は、彼らを強い基盤としています。キリスト教福音派は、今のイスラエルを支配する連立政権の中でも強い影響力を持つユダヤ教原理主義派(本質的な正統派)とされる人...
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