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パレスチナ問題を意図的に忘却するトランプの戦略

深刻な中東情勢(2)米国のJCPOA離脱と大使館エルサレム移転

山内昌之
東京大学名誉教授/歴史学者/武蔵野大学国際総合研究所特任教授
情報・テキスト
米国のJCPOA(協同包括的行動計画)離脱へのイランの反発が、シリアに駐屯する革命防衛隊クドゥス軍団のイスラエル攻撃を促し、シリア問題の解決をさらに複雑化させた。中東では、対立関係が頻繁に入れ替わりながら、「対立」だけは激化しつづけている。トランプ政権による中東政策は何を狙っているのだろうか。(全3話中第2話)
時間:10:59
収録日:2018/11/29
追加日:2019/02/04
ジャンル:
≪全文≫

●米のJCPOA離脱で注目されたイランのミサイル能力


 皆さん、こんにちは。

 中東危機の中心を成すシリアにおける危機は、2018年のアメリカのJCPOA離脱によって、とりわけ鮮明になってきました。2015年7月にウィーンで結ばれたJCPOAは国連安保理の常任理事国5カ国にドイツが加わった6カ国によるもので、イランの核問題に関する「包括的共同行動計画」の略です。

 JCPOAによる西側諸国の妥協をよいことに、イランは制裁の一部解除によって得た石油収益をシリアやイエメンの内戦につぎ込んだと、トランプ氏は強く非難しています。

 これに対してイランは、そういう事実は無いと反発しています。「無い」と言いつつ、シリアに駐屯するイラン革命防衛隊のクドゥス軍団(クドゥスはエルサレムを意味)はイスラエルへの攻撃行為に出ています。

 この際、西側、特にアメリカが関心を持ち、厳しく批判しているのは、イランの「ファテフ110」と呼ばれる射程300キロに及ぶミサイルです。そのようなものをレバノンやシリア国内に配置することで、シリア問題を複雑化させ、イスラエルとイランが直接対峙する危険性が出てきている。そしてイスラエルを脅かしているという点です。

 ファテフ110は、長さが8.86メートル、射程距離は今申し上げたように300キロ。このミサイルをダマスカスの近郊やレバノン南部のスール近郊などに置くと、エルサレム、テルアビブ等々が優に射程距離に入ってくるわけです。イスラエルにとってのイランの脅威は、遠くにある危機ではなく、近くの危機になったということです。


●対立関係を組み替えて混迷を深めるシリア


 また、ドナルド・トランプ大統領やイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相が強く批判するのは、イランがテヘランからベイルート(レバノンの首都)、あるいはテヘランからラタキア(シリア海岸部)まで、事実上のランドブリッジ(陸の橋)をつくったことです。

 これはシーア派の居住地域や影響圏である地域を結ぶもので、テヘランからハマダーン(かつてロシアも使用歴のある空軍基地があります)、そしてバグダードを通ってモースルの西のテル・アバルからシリアに入り、ディルアッズールへ。そこからずっとシリアを横切り、首都ダマスカスからレバノンのベイルートやシリアのラタキアに達して地中海へ出て行く。

 このような長い陸の橋が、イスラエルにとってたいへん大きな脅威になってきています。イスラエルだけではなく、スンナ派の主要諸国、すなわちエジプトやサウジアラビアの湾岸諸国、特にサウジアラビアにとっては深刻な危機になっています。この点、最近のイスラエルとサウジアラビアの接近は、共通の敵イランに対する利害の一致が見られてきたことにほかなりません。

 すなわちシリア問題は、単純にイラン対アラブ、イラン対イスラエルといったものではなくて、イスラエルとアラブの一部の間に勢力の組み替えや危機の組み替えが行われていることが深刻な点です。

 トランプ大統領は2018年9月25日の国連総会で、イラン政府についてのコメントを述べました。

 「イラン政府は、近隣諸国や国境や国家主権を尊重しない。代わりに、イランの指導者たちは国の資源を奪って私腹を肥やし、中東全域とそのはるか遠方にまで混乱を広めている」と非難することで、トランプ氏は自らのJCPOAからの離脱は正解だと語りたかったわけなのです。


●アメリカの「エルサレム」承認と大使館移転


 こうして、複合危機は、イスラエルとシリアにある革命防衛隊などイラン勢力との相互攻撃にエスカレートしています。現在、イスラエルとイランは、両国の正規軍が戦ったり、両国がミサイルを応酬したりの正面衝突にこそ至っていませんが、革命防衛隊などを軸にした危機が生じていることは事実です。

 そのプロセスで生じたのが、アメリカによるエルサレムのイスラエル首都承認であり、続いてアメリカは大使館をテルアビブからエルサレムへ移す決定をしたのでした。

 これまでアメリカは、中東問題に関するオネスト・ブローカー(正直な仲介者)であることを目してきました。イスラエルに対してもアラブ諸国やパレスチナに対してもそれぞれグリップを効かせ、中東における平和と安定を曲がりなりにもつくろうという姿勢を、本音はどうあれ建て前上は示してきたのです。ところがトランプ氏は、オネスト・ブローカーを表面的に演じることさえ放棄してしまったのが、彼の中東政策の大きな特徴です。

 パレスチナ自治政府大統領でPLO(パレスチナ解放機構)議長のマフムード・アッバース氏が、米大使館をエルサレムに移転したこと、イスラエルの首都としてのエルサレムをアメリカが承認したことを「最大の罪」であると表現したのは、記憶に新しいところです。

 パレスチナ人が直ちに抗議に繰り...
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