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イランへの圧力はネタニヤフ首相への援護射撃だった

安倍総理のイラン訪問を読む(2)イランの代理人の動向

山内昌之
東京大学名誉教授/歴史学者/武蔵野大学国際総合研究所客員教授
情報・テキスト
ベンヤミン・ネタニヤフ首相
トランプ大統領は、ゴラン高原の占領地のイスラエル領有承認や、イラン革命防衛隊の「テロ組織指定」、イラン産原油禁輸の徹底など、歴代の米大統領が思いもよらない選択をしたが、これはイスラエルのネタニヤフ首相への「援護射撃」であった。これを受けて、イラン、そしてイランの代理人はどう動くか。(全3話中第2話)
時間:11:13
収録日:2019/06/10
追加日:2019/07/11
カテゴリー:
≪全文≫

●「攻撃的な封じ込め」を言及した意味


 皆さん、こんにちは。

 2019年3月にイスラーム国のいわゆるカリフ制国家が完全に敗北して、多くのイスラーム国の要員が降伏しました。これによって、中東の基本的な地政学的な構図が変化を遂げました。それを前提として、イランとアメリカとのあいだにある緊張が高まったということですが、もう一つ、イスラーム国の領土としての消滅、もしくは消去ということ以外に重要なのは、イスラエルの要素です。

 (2019年)3月26日に、イスラーム国の解体を受けて、トランプは、歴代のアメリカ合衆国大統領が思いもよらない選択をしました。それは、シリアの領土とされてきたゴラン高原の占領地をイスラエルが領有することを承認したことです。

 それに加えて、それから2週間ほどたって、4月8日、イラン革命防衛隊について、アメリカ合衆国は「テロ組織」だと指定したわけです。イラン革命防衛隊は、イランの国防軍とは異なるとはいえ、イランの正式な組織です。その内容、性格、あるいは行為がどのようなものであるかについては、人によって批判があり、シリアの内戦や内乱に大きく関与しているイラン革命防衛隊でありますが、ともかく国家の組織であります。それをテロ組織だと指定したのは、大変大きな一歩を踏み出したということです。

 しかし、この4月8日のアメリカの決断は、次の日に行なわれた、ある大きな行事に対する援護射撃でした。これは非常に情勢が不利だとされていた、4月9日のイスラエルの総選挙において、ネタニヤフ首相の与党が辛くも勝ったことです。まさに、「辛くも」でした。

 もちろん、単独多数は取れませんでしたから、ネタニヤフは右派と極右勢力の連立によって、5期目を続投すると見られていたのです。その基本的な成功は、トランプ大統領が保証したといえます。しかしながら、連立工作に今日に至るまで成功しておらず、再び2019年の夏以降、再選挙という事態を迎えているのはご案内のとおりです。

 もう一つ、こうしたイランに対するアメリカの攻勢があった一つの例は、2018年11月のイランの石油輸入の除外適用、すなわち7カ国1地域(中国、インド、トルコ、韓国、ギリシャ、イタリア、日本、台湾)のイランからの石油の輸入について、とりあえず除外適用をするといっていたもの、2019年5月2日以降撤廃すると表明したことです。すなわち5月2日以降、日本も含めて、イラン産原油を輸入することを、アメリカは禁じるということになったわけです。

 アメリカの制裁はけしからん、そういう制裁を受けてもいいからイランの石油を輸入すればいいではないか、という考えもありましょう。しかし、この制裁がどういうことかというと、イランにかかわる日本企業の物資調達、あるいは輸出入だけではなくて、それに関連する直接・間接の商売に当たる、たとえばエネルギー業者、あるいは商社活動、金融業者、こうした各業者が、アメリカ国内における商業活動において制裁を受けるということです。したがって、ある意味では日本企業の生命にかかわる部分が、イランにかかわって制裁されるということになるわけです。

 こうしたなかで、結局、アメリカはイランに対する「最大限の圧力」という、これまでいってきたことと並んで、「攻撃的な封じ込め」ということを言い出すようになってきております。単なる受動的なものではなくて「攻撃的な封じ込め」ということ、すなわち、トランプ政権の下においては、こうした危険が状況的には迫っているということです。


●焦点はイランがJCPOAから離脱するか否か


 ですから、ある硬派な世論では、「第4次湾岸戦争が起こりうるのではないか」という危惧もあるのですが、なかなか事柄はそう簡単ではありません。

 結論からいうと、アメリカ自身が、トランプ政権の下でのイランとの全面戦争はもちろん無理ですし、海外派兵をするにあたって重要な、アメリカの上下両院を中心とした議会内外における超党派的な合意を結ぶということも不可能であるということです。

 またイランは、かつてイスラエルが攻撃した、イラクやシリアのような小規模な原子炉を運用している国とは違います。地上のみならず、地下において、しかもかなり深い地下において、どれほどの核開発が行なわれているかわからないということがあります。

 したがって、イラン自身もまた、JCPOA(イランの核問題に関する最終合意<包括的共同作業計画>)に関しては、必ずしも全面的に否認してきたわけではないのです

 しかし、アメリカがそうするのであるならば、ということで、アメリカによる制裁の表明以降、イランはJCPOAを一部修正することを表明しました。具体的には低濃縮ウランの製造を稼働するということです。低濃縮ウランをいくつも獲得して、それを遠心分離器にかけて...
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