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オバマ政権の外交遺産を否定するトランプ大統領

トランプの中東戦略とその影響(2)傲慢と孤独の先を憂慮

山内昌之
東京大学名誉教授/歴史学者/武蔵野大学国際総合研究所客員教授
概要・テキスト
オバマの外交遺産をことごとく否定し、他者の痛みを慮らず、政治と経済を混同して軍事産業に加担する。歴史学者・山内昌之氏が、象徴的な頭文字「ISRAEL」に即してトランプ氏の中東戦略と国際社会への影響を解説。トランプ氏が進める傲慢な中東政策の先にあるものに警鐘を鳴らす。(全2話中第2話)
≪全文≫

●オバマ政権の外交遺産をことごとく否定


 皆さんこんにちは。
 
 今日は、アメリカの中東政策を形作るメタファーの頭文字「ISRAEL」に即して考えてきた前回の続きをお話ししたいと思います。

 3文字目の「R」は何かといいますと、ドナルド・トランプ氏が何につけてもますますオバマ政権とあべこべ、リバースした姿勢を取っているという意味でのリバーサル(reversal)のRです。

 バラク・オバマ氏の外交遺産を全てといっていいほど否定するトランプ氏の手法は、単純な意趣返しを越えて、政治的には存外に戦略めいたところがあります。トランプ氏には戦略がないと言いますが、それは私たちの知っている戦略なき戦略ともいうべきもので、明白にトランプはオバマ氏が否定したようなイスラエルとののめり込んだ同盟関係を取り、また非民主化王国であるサウジアラビアとの距離を置いた関係を一切否定して、イスラエルやサウジアラビアに接近し、イランとの核合意を破棄するという形で、この両国の思惑に合致するような政策を取っています。

 オバマ氏はイランとの核合意の破棄をイスラエルやサウジアラビアに望まれても拒否しました。イスラエルとサウジアラビアとの関係をやや悪化あるいは緊張化させたのは事実です。

 トランプ大統領はあべこべに両国の反乱政策を受け入れ、アメリカの中東政策を援助させる要因として活用しようとしています。

 つまり、トランプ氏はイスラエルとアメリカとの過剰な同一化によって、中東でもうひとつの「R」、すなわちロシアに対抗できる普遍性を失った危険性があるということです。

 私の見るところ、ロシアは冷戦の終結以降、中東において一番高い存在感を誇っています。そして、シリア問題を解決できる強国となり、シリア問題の事実上の当事国としてイランとともに自国の力を誇っています。トルコもまたスンナ派のイスラム諸国の中では唯一存在感を発揮しています。こうした違いは究極的にいうと、トランプ大統領とウラジーミル・プーチン大統領の政治的技量や戦略的構想力の違いということができるでしょう。


●米国製兵器優良顧客としてのアラブ諸国


 次に「ISRAEL」の「A」は何かというと、兵器(Arms)と傲慢さ(Arrogance)です。トランプ大統領は、アメリカの産軍複合体、すなわち軍事産業と軍隊との複合体の究極的なリーダーといっても差し支えありません...
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