トランプの中東戦略とその影響
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
オバマ政権の外交遺産を否定するトランプ大統領
トランプの中東戦略とその影響(2)傲慢と孤独の先を憂慮
山内昌之(東京大学名誉教授/歴史学者/武蔵野大学国際総合研究所客員教授)
オバマの外交遺産をことごとく否定し、他者の痛みを慮らず、政治と経済を混同して軍事産業に加担する。歴史学者・山内昌之氏が、象徴的な頭文字「ISRAEL」に即してトランプ氏の中東戦略と国際社会への影響を解説。トランプ氏が進める傲慢な中東政策の先にあるものに警鐘を鳴らす。(全2話中第2話)
時間:12分24秒
収録日:2018年9月27日
追加日:2018年10月31日
カテゴリー:
≪全文≫

●オバマ政権の外交遺産をことごとく否定


 皆さんこんにちは。
 
 今日は、アメリカの中東政策を形作るメタファーの頭文字「ISRAEL」に即して考えてきた前回の続きをお話ししたいと思います。

 3文字目の「R」は何かといいますと、ドナルド・トランプ氏が何につけてもますますオバマ政権とあべこべ、リバースした姿勢を取っているという意味でのリバーサル(reversal)のRです。

 バラク・オバマ氏の外交遺産を全てといっていいほど否定するトランプ氏の手法は、単純な意趣返しを越えて、政治的には存外に戦略めいたところがあります。トランプ氏には戦略がないと言いますが、それは私たちの知っている戦略なき戦略ともいうべきもので、明白にトランプはオバマ氏が否定したようなイスラエルとののめり込んだ同盟関係を取り、また非民主化王国であるサウジアラビアとの距離を置いた関係を一切否定して、イスラエルやサウジアラビアに接近し、イランとの核合意を破棄するという形で、この両国の思惑に合致するような政策を取っています。

 オバマ氏はイランとの核合意の破棄をイスラエルやサウジアラビアに望まれても拒否しました。イスラエルとサウジアラビアとの関係をやや悪化あるいは緊張化させたのは事実です。

 トランプ大統領はあべこべに両国の反乱政策を受け入れ、アメリカの中東政策を援助させる要因として活用しようとしています。

 つまり、トランプ氏はイスラエルとアメリカとの過剰な同一化によって、中東でもうひとつの「R」、すなわちロシアに対抗できる普遍性を失った危険性があるということです。

 私の見るところ、ロシアは冷戦の終結以降、中東において一番高い存在感を誇っています。そして、シリア問題を解決できる強国となり、シリア問題の事実上の当事国としてイランとともに自国の力を誇っています。トルコもまたスンナ派のイスラム諸国の中では唯一存在感を発揮しています。こうした違いは究極的にいうと、トランプ大統領とウラジーミル・プーチン大統領の政治的技量や戦略的構想力の違いということができるでしょう。


●米国製兵器優良顧客としてのアラブ諸国


 次に「ISRAEL」の「A」は何かというと、兵器(Arms)と傲慢さ(Arrogance)です。トランプ大統領は、アメリカの産軍複合体、すなわち軍事産業と軍隊との複合体の究極的なリーダーといっても差し支えありません...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「政治と経済」でまず見るべき講義シリーズ
産業イニシアティブでつくるプラチナ社会(1)「プラチナ社会」構想と2050年問題
5つの産業で「資源自給・人財成長・住民出資」国家を実現
小宮山宏
多数派が多数でなくなるとき
悩める多数派…なぜ「多数は少数の集まり」と考えるべきか
曽根泰教
日本の財政政策の効果を評価する(1)「高齢化」による効果の低下
高齢化で財政政策の有効性が低下…財政乗数に与える影響
宮本弘曉
トランプ政権と「一寸先は闇」の国際秩序(1)国際秩序の転換点と既存秩序の崩壊
経済秩序や普遍的価値観を破壊し、軍事力行使も辞さぬ米国
佐橋亮
松下幸之助の人づくり≪3≫理想の政治(1)国家に経営理念があれば、もっと日本は発展する
無限の可能性に挑め…国家経営を創造し、新時代の憲法を!
松下幸之助
トランプ・ドクトリンと米国第一主義外交(1)リヤド演説とトランプ・ドクトリン
トランプ・ドクトリンの衝撃――民主主義からの大転換へ
東秀敏

人気の講義ランキングTOP10
東大ハチ公物語―人と犬の関係(1)上野英三郎博士とハチ
忠犬ハチ公で哲学する…人と犬の関係から見えてくる道徳論
一ノ瀬正樹
産業イニシアティブでつくるプラチナ社会(3)健康産業イニシアティブ実装に向けて
使えるデータで「健康のプラットフォーム」を実現しよう
小宮山宏
エンタテインメントビジネスと人的資本経営(4)エンタメで一番重要なのは「人」
変人募集中…0から1を生める人、発掘する人、育てる人
水野道訓
経験学習を促すリーダーシップ(1)経験学習の基本
成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ
松尾睦
クーデターの条件~台湾を事例に考える(1)クーデターとは何か
台湾でクーデターは起きるのか?想定シナリオとその可能性
上杉勇司
徳と仏教の人生論(2)和合の至りと正直
正直とは何か――絶対的存在との信頼関係の根幹にあるもの
田口佳史
大谷翔平の育て方・育ち方(1)花巻東高校までの歩み
大谷翔平の育ち方…「自分を高めてゆく考え方」の秘密とは
桑原晃弥
ショパンの音楽とポーランド(1)ショパンの生涯
ショパン…ピアノのことを知り尽くした作曲家の波乱の人生
江崎昌子
習近平中国の真実…米中関係・台湾問題(1)習近平の歴史的特徴とは?
一強独裁=1人独裁の光と影…「強い中国」への動機と限界
垂秀夫
学力喪失の危機~言語習得と理解の本質(1)数が理解できない子どもたち
なぜ算数が苦手な子どもが多いのか?学力喪失の真相に迫る
今井むつみ