トランプ政権の中東政策
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6ヶ国競合状態にある中東の鍵を握るのはイラン
トランプ政権の中東政策(5)中東で拮抗する6ヶ国
山内昌之(東京大学名誉教授/歴史学者/武蔵野大学国際総合研究所客員教授)
歴史学者の山内昌之氏が現在の中東におけるキー国家の関係について解説する。複雑な構図を持つアラブ世界において、その運命を決したり判断したりできる国はアラブ諸国にはない。今、中東情勢の鍵を握るのは、トルコとイラン、アメリカとロシア、加えてサウジとイスラエル。中東はこの6ヶ国の競合、協調、対立の中、微妙な均衡を保っている。(全5話中第5話)
時間:11分11秒
収録日:2018年6月21日
追加日:2018年7月26日
カテゴリー:
≪全文≫

●トランプ大統領の手のうちを読み切っているプーチン大統領


 皆さん、こんにちは。

 ウラジーミル・プーチン大統領はドナルド・トランプ大統領と比べた場合に、なかなか単純な人物ではありません。トランプ大統領はいろいろなことを言っても、その行動や思惑からして何をするか分からないという意外性はありますが、さほど戦略的に練られた方策で動いているわけではありません。何より、プーチン大統領はトランプ大統領の手の内を読み切っているということがあります。ロシアは相当程度にトランプ大統領のさまざまな歴史、あるいは秘密、もろもろの要素を、おそらく押えているのだろうと思いますが、いずれにしてもプーチン大統領はトランプ氏の手のうちはお見通しであるという感があります。

 例えば、2018年4月にアメリカによるシリアの空爆がありましたが、その時にたまたまかどうか、シリアの首都ダマスカスを訪れていた人物がいます。それはロシアの政権与党である「統一ロシア」のアンドレイ・トレチャク書記長で、彼がシリアの首都を訪れて滞在していたという事実があります。

 実際、アメリカの軍事作戦はシリア問題を解決できず、現在もそのように情勢は進んでいるのですが、この書記長訪問は、トランプ大統領が行うという、その程度のスポットによる、しかも思いつきのような域を出ない作戦ではシリア問題は解決できず、アサド政権の化学兵器の利用も阻止することはできないということを、見越した動きなのです。こうした点について協議とアサド政権に対するテコ入れとして、トレチャク書記長はダマスカスを訪れたと、私は見ています。おおよそ、トレチャク氏はバッシャール・アル・アサド大統領を含めたバアス党関係者との調整、そしてロシアの分析などについて伝えたのだろうと思われます。


●シリアやイラクはもはや統一国家とはいえない状態


 中東には誠に悲しいことですが、戦争こそ日常であり平和は非日常であるという現実がありますし、またそのような言葉を使う人もいます。今後、中東の複合危機がますます深まることが予想されますが、アメリカの行動によって新たな構図ができ始めています。

 まずまとめておくと、シリアやイラクはもはや統一国家とは言い難いということです。私たちが使う地図にはシリアやイラクは枠組みとしてありますが、この枠組み、もともと第一次世界大戦後の戦争処...

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