●ロシア国民が期待する制裁解除と逆制裁の解決
皆さん、こんにちは。前回は、ロシアのエリートとロシアの市民たちが、トランプ氏の大統領選勝利に喜んだことについて触れましたが、彼らはどの点を、トランプを歓迎する根拠としているのでしょうか。
ロシアの人々は、トランプ大統領がロシアについて、私たちからするとへつらいとも思える表現をする、あるいはロシアを評価するというようなことを見て、喜んでいるのです。自国のこと、つまり自国の市民、政治、文化、社会を評価されていやがる人は、世界にいません。しかも、あのように個性的なドナルド・トランプ大統領がなぜ、ロシアを誉めちぎるのかということについて、ロシア人は「それはロシアが大国だからさ」「それはロシアが高い文明、文化を持っているからだ」、あるいは「ロシアの軍事力や政治力が強いからだ」といろいろな答えを出しているかもしれません。しかし、非常に端的にいえば、そこにはトランプ大統領が制裁を解除してくれるという期待感があるのです。
●対米関係改善はロシア国民にとって大きな慰め
制裁も多くの点で、ボディブローのようにロシアの市民生活を直撃していますが、むしろ逆に、「逆制裁」というものが効いているのです。逆制裁とは何かというと、EUやアメリカから入ってくる食料品や日常の安価な物資、こうしたものの輸入をロシア自身が拒否したということです。これが逆制裁です。その結果、日用品や食料品の価格が高騰したことが、ロシアの市民にとって大変な打撃となっているのです。そして、こうしたことがなくなるのではないかという期待が、トランプ人気を支えているわけです。
たとえ、制裁がまだしばらく続くとしても、アメリカとの関係改善、改良はロシアの人々にとって、いわば気分転換の兆候、あるいは慰藉の兆しともいうべきものになっている、もしくはなろうとしていることは間違いありません。
制裁以降、この過去2年間の対立は、ロシア人の愛国心、愛国感情を高めただけではなく、実際にはロシア人の外に対する危惧の念も高めました。2016年の初秋には、ロシアの世論において、冷戦以来初めてアメリカとの戦争が起こるのではないか、ということを心配する人たちが出てきました。こうした中、トランプ氏の勝利は、少なくとも「もはや戦争はない」というサインとして感じられているということです。逆に中国などは反対の脅威を感じています。しかし、ロシアはトランプ氏の勝利によって、そうした軍事的な脅威はなくなったと考えているのです。
ロシアにおける一般的に反体制派のインテリゲンツィア、反政府的な知識人たちは、伝統的にはアメリカでは民主党を支持する傾向があり、民主党に親近感を持っていました。彼らは、トランプ大統領の政治や行動スタイルを嫌っています。しかしながら、こうした反対派でさえトランプ氏の勝利には、ある種の気分転換、あるいは息継ぎのモメントになると感じています。
●反対派制圧にアメリカ批判を利用したプーチン
2011年から2012年にかけて、ウラジーミル・プーチン氏の大統領選挙キャンペーンをめぐって、反対派たちは大きく抗議しました。そのため、プーチン氏が大統領に復帰して以来、ロシアの体制はこうした反体制派を批判してきました。すなわちプーチン大統領は、自らの批判をする反対派のインテリゲンツィアを、「悪しきアメリカの影響」、つまりアメリカの民主党などの政権支持者と同じような権力批判に通じる、そうしたアメリカの悪い影響を受けている、と批判してきたのです。これは一種の中傷戦略です。こうした人々をそしったり傷つけたりする中傷戦略を、プーチン大統領は立ててきたわけです。そのため、プーチン大統領の反対派の中には、2012年以来、亡命する人たちが多く出ました。そこで、プーチン大統領は新しく、外国の手先を罰するという法律を実際、議会に通したりしました。
したがって、アメリカ、特に市民的自由や人権を強調しようとしたオバマ政権との敵対的な関係は、ロシア国内において自立しようとする自由な市民社会、あるいは独立した市民社会、自立した公共というものを従属させていくために必要であり、ロシアは常にアメリカ、あるいはアメリカに対する批判というものを利用してきたのです。
●オバマ政権で外交敗者となったアメリカ
ロシアとアメリカはこうした関係を今後もそのまま維持していくかというと、どうもそうではないのではないか。つまり、トランプ大統領は今のところですが、敵視政策をやめるということになっているわけですから、そうすると、ロシアとアメリカの間には制裁解除という具体的な問題はひとまず置くとしても、トランプ政権初期においては、オバマ大統領の時代と比べて、差し当たりいい関係が生まれるという可能性があると思...