●ISとアメリカの秘密交渉が行われた?
皆さん、こんにちは。前回はISの最終局面についてお話ししました。このISがアル・バクマル地方のバーグーズ地域から逃げ伸びることができている、あるいは一部が逃げ出してしまったことについて、「なぜ逃げ出すことができたのか」という秘密が残ります。これはなかなかに意義深いことで、私の見るところ、直接ではないにしても、アメリカはISの一部がこのように逃亡することに関して、俗にいう「見て見ぬふり」をする、あるいは窮鼠猫を噛むというような事態を避けて、最終的に、ある種の留保をつけたのではないか。つまり、言い換えると、秘密交渉が双方の間に行われたのではないかということで、そうした疑念を持つ者もいます。
私の見るところ、2019年1月から2月の最初の週頃まで、ユーフラテス東岸のバーグーズに追い込められたISが、少なくともアメリカの意思を代した形での誰か(おそらくこれはクルド人の一部だといわれていますが)と、Unspecified area、すなわち名前が特定されない地域、具体的に名前を挙げない地域、いってしまえば非常に曖昧だけれども「どこかの地域」に撤退するということで、相互に折り合いがついたということです。
そこで、アルタナフというシリアの南東部の砂漠地域に撤収したのではないか、あるいはイラク西部のアンバルの方に向けて撤退したのではないか、そういう余地を残したのではないか、ということなのです。ここが、前回お話ししたように、ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相がアメリカに対して批判的になっている所以です。
なぜそんなことをしたのか、あるいはしたという風聞が立つかというと、アメリカはISの力に徹底的に対峙するのではなく、むしろそれをアサド政権に対する牽制要因、あるいはロシアに対する牽制要因として、ISの力を少し残しておくことは決して不得策ではないと考えたのではないかという解釈が、一部の意地悪いコメンテーターから出ているわけです。
●アメリカ・イスラエル同盟 VS イランという対立構造
ドナルド・トランプ大統領の関心は、これまではバッシャール・アル・アサド大統領の排除よりもISの解体にあったわけですが、ご案内のように、ジョン・ボルトン安全保障担当大統領補佐官は、一貫してISよりもイランの脅威を強調してきました。このISの最終局面にいたって、イランが最終的な脅威であることにおいてトランプ大統領とボルトン補佐官は一致したわけであり、今後はこのISの凋落によって、イランがアメリカにとって最大の脅威、ひいてはアメリカの同盟国であるイスラエルにとって、正面から対峙すべき敵として浮かび上がってきているというのが、実はISの最終局面の別な意味につながる解釈になるのです。
すでにアメリカは、昨年2018年、イラン核合意JCPOA(包括的共同作業計画)から脱退しました。それに伴いアメリカは、逐次イランに、二次にわたる独自の制裁を実行してきました。第一段階では、アメリカ紙幣ドルの購入の禁止、金属・鉄鋼・自動車部品などの調達の禁止、第二段階として、12月の最初の週には、原油エネルギー・海運・中央銀行などの取引などにも制裁を拡大したことはすでにお話しした通りです。
トランプ大統領は、このようにして、アサド政権の後ろ盾になっているイランを牽制していたわけですが、さらにそのイランと同盟を組んでいるロシアに対しても、間接的に警告を発したと見るべきです。
今年(2019年)の2月7日に、イスラエルの報道によりますと(これはイスラエル側の報道ですのでそれを考慮して聞かないといけませんが)、ロシアが海軍基地を持っている地中海沿岸のタルトゥースに、イランやその別働隊であるレバノンのシーア派武装組織ヒズボラがミサイル製造工場を造ったという情報が入ってきています。そこでイスラエルは、シリア戦争の局面においては非常に慎重に行動してきたのですが、イスラエルのネタニヤフ政権は、昨年(2018年)からシリアに対する警告の砲撃あるいは空爆などをするようになりました。そして、トランプによるイラン制裁、アメリカ大使館移転など、ベンヤミン・ネタニヤフ首相に好材料ばかり続く中に、今回のIS消滅に向けた動きの中で、アメリカはイランに対して本格的に対峙するという、イスラエルにとっては大変有難い状況がつくられつつあるということなのです。
2019年4月初旬には、イスラエルの総選挙が行われます。最近、映像などで見ていると、テルアビブをはじめとした街々に目立つ写真があることに気が付きます。それは非常に大きな写真で、ネタニヤフ首相とトランプ大統領の親密さを誇示するツーショットの写真、あるいは二人の大きな写真を並べて掲げたような写真ポスターで、非常に印象深いものがあります。
そんな中、2019年1月24日に、イスラエル...