●「文明間対話」は非常に巧妙な戦術だった
皆さん、この間、イランを中心とする中東情勢、あるいはアメリカ・イラン関係についてお話してきましたが、その間において目立つ、二つの事件がありました。
一つは、イランによる、UAE(アラブ首長国連邦)の沖におけるタンカー攻撃です。もう一つは、サウジアラビアのパイプラインに対するドローンによる攻撃でしたが、これも、イランに直接・間接につながりのある組織によってなされたと語られております。
これは、いってしまえば、ハーメネイ最高指導者の忍耐の限界を超えつつあるということでありまして、トランプがイランの石油輸出をゼロにするということに対する、ある種、イラン側からの反撃ということなのです。
そういう意味で、アメリカの出方を見ているという、危険な実験が行なわれているわけで、大規模攻撃ではないけれども、イランによる神経戦や、陰湿な、ある意味でのジャブが行なわれているということです。
トランプと金正恩の会談が2回行なわれたように、トランプ大統領は、必要とあらば、あるいは利益と見るならば、イランとの対話というものも否定しないだろうという見通しが、イラン側にはあるわけです。
イランから、かつてアメリカに歩み寄ったことがあります。これはあまり、そのように意識されませんでしたが、元大統領ハータミーによる「文明間対話」です。
アメリカとの直接的な対話をイランのほうからいうということは、イランにとっていわば屈辱的なことであり、語ることはできませんでした。ところが、イランのある意味で非常にスマートでカンニング(狡猾=こうかつ)なところは何かというと、アメリカとの対話やアメリカとの交渉を、「普遍的な文明間対話」という名目の下に、普遍的な枠組みと命題に落とし込むことによってアメリカと接近をするという、そういう非常に巧妙な戦術に出たことです。
アメリカはそれに乗らなかったために、結局、イラン・アメリカ関係は今日に及んでいるということです。
ですから、イランからするならば、今回は、アメリカのほうからイランに対して、何らかの働きかけをするべきだ、という考えがあるのですね。この強烈な自意識と誇り、これがイランの持ち味であるわけです。
●イランが減産した場合の対処の問題点とは
基本的にイラン、アメリカ、イスラエル、サウジはいずれも戦争を望んでおりません。そうしてサウジもOPEC加盟国であり、(石油を)増産した場合には、他の国との関係が悪化する危険性もある。つまり、イランが減産あるいは生産停止した場合、それを「どこかの国」が担わなければいけません。そうした場合、「どこかの国」というのは、アメリカからするならば、「サウジにやってほしい」ということになるかもしれませんし、アメリカはそれは否定しないでしょう。日本あたりにとっても、いいシナリオかもしれません。しかし、このように増産をしていくことは、確実に割り当てによって各国の経済を動かしているOPECの機能そのものに対して、いわば、サウジの基本的なリーダーとしての役割を放棄しかねない危険性を持つということです。
サウジアラビアは、最大の敵国であるイランへのアメリカによる制裁を是とする一方で、油価の高騰が世界経済を後押しして、過去のような負のスパイラルが起こる事態を恐れてもいるのです。ここに中東情勢の難しさがあります。
しかも、もう一つの要因があるわけです。アメリカの指示を受けて従ったかのようなサウジアラビアの増産は、サウジアラビアの国内政治関係や、アラブにおける地位を傷つけ、サウジアラビアの自尊心を傷つけかねない。UAEとサウジアラビアともに、2018年11月の,「イランの原油の輸出をゼロにしていく」といったトランプの宣言以来、自らの国の金融や経済においても疲れを蓄積しているわけで、なかなかにおいて、そう勝手にはいきません。
基本的に、アメリカは「制裁が効いている」といっていますが、イラン原油の輸出の総量は、実はあまり知られていません。アメリカはイランの輸出量を日量100万バーレル以下に抑えているというのですが、ユーラシアグループという地政学研究グループの算定では、日量120万バーレルに及んでいると、こういう高い数字を挙げている評価もあります。
また、タンカーの輸送にかかわる調査業務をやっているタンカー・トラッカーズ.com(TankerTrackers.com)によりますと、この3月だけでも、190万バーレルをイランは輸出しているということになります。
ですから、アメリカが制裁を貫徹していくためには、これ以上にアメリカはやらないといけない。それで、先ほど申したような7カ国1地域、こうした国々に対しても、例外なき制裁への参加を呼び掛けている。そういうところが、日本のいま置...