●安倍首相は最後の花道としてレガシーづくりに力を注いでいる
では一番重要な日本に関して述べたいと思います。
安倍首相は、2021年9月に総裁としての第三期目を満了します。その後は引退するのか、それとも解散という手に打って出るのか、第四期を継続するのか、と周囲の人間はいろいろ考えます。二階俊博氏(自由民主党幹事長)は四期目もあるのではないかといっています。あるいは新しい執行部で総選挙を行う可能性もありますが、いずれにしても後継体制がどうなるのかは問題です。
このくらい長く政権を続けると、誰でも永久に記憶される存在になりたいので、レガシーづくりに励むようになります。加えて、レガシーづくりに一所懸命取り組むと、レームダックに陥らないという効果もあるのです。例えば吉田茂元首相であれば、サンフランシスコ講和条約締結がありました。池田勇人元首相は、所得倍増計画を打ち出しました。佐藤栄作元首相は、沖縄返還を達成しました。田中角栄元首相は、日中国交回復を成し遂げました。これらは全て、永久に記憶されるような業績です。
安倍首相もさまざまなことに取り組んでいるようですが、一番は日米関係緊密化に注力しています。安全保障協力を非常に強化して、アメリカでは評判が高い。トランプ大統領ともこれまでゴルフなどして、緊密な関係を築いていますが、これも評価できると思います。日中関係も改善されました。これは、実はトランプ大統領のおかげなのです。日露関係に関しても、現在プーチン大統領のもとに、世界で最も足繁く通っているのは安倍首相だそうです。ですので、トランプ大統領率いるアメリカ、中国、ロシアに関して、外交で成果をあげています。
さらに、インドのナレンドラ・モディ首相や、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相とも一番親しいのは安倍首相です。中東まで出掛けて、イランのハッサン・ローハニ大統領とも会談しています。おそらく首脳会談を世界で最もこなしている人は、安倍首相なのです。傑出していますよね。ただ、これがレガシーとして評価されるのかという点については、また考える必要があります。
国内で安倍首相がおそらくレガシーとして本人が考えているのは、憲法改正です。これは安倍首相の悲願です。自主憲法の制定は、自民党結党の党是ですから。そして、もう一つは経済、アベノミクスでしょうね。アベノミクスは、経済に関する話題なので、後ほど詳しくお話しします。
●安倍首相は後継者づくりを行っていない
これからどうなるのかという点を、皆さんと一緒に考えていきましょう。2021年9月には、自民党総裁としての第三期を満了します。安倍首相は2020年1月7日の仕事始めの日に、あと1年9カ月、全力を尽くすのみ。9年目には大きな花を咲かせます、といいました。
これをどのように解釈すれば良いでしょうか。実は2019年12月29日に、BSテレビ東京の日曜サロンという番組で、口を滑らせて、ポスト安倍の候補をいってしまいました。政調会長の岸田文雄氏、外相の茂木敏充氏、官房長官の菅義偉氏、厚労相の加藤勝信氏。この中で、一番の側近は加藤氏です。
私は、最大のレガシーは後継者づくりだと思います。社長の仕事の3分の1は後継者づくりだと思います。後継者がいなければ、次に続いていきません。誰を後継者に選んで育成するか。私は小泉純一郎氏が首相の時に特命顧問として近くにいましたが、小泉元首相は安倍首相を育てました。あらゆる首脳会議に全て連れていっていました。他の人がいなくても、安倍首相だけはそばにいました。つまり帝王学を教えていたのです。しかし、安倍首相は誰も連れ立っていません。どうするのでしょうか。
●後継者の選抜には二重のリスクがある
安倍一強体制は、非常に強固です。ですので、後継者の選抜には、二重のリスクがあると思います。これは小選挙区制の後遺症なのです。つまり中選挙区制だった時代には、1選挙区に自民党から2人、3人と候補者が出ます。すると、派閥を代表して候補者が出てくるので論戦がありました。小選挙区制の下では自民党から1人しか候補者が出ません。結局全て官邸が主導するので、一強体制になるわけです。
身内から選抜すると、当然、安倍体制がそのまま続きます。すると、安倍体制の6割程度は菅官房長官が切り盛りしているので、菅官房長官が引き継いで菅体制が成立すれば、ほとんど変化は起きないでしょう。そうすると、私から見ても現政権にはかなりの欠陥がありますが、それらは改革されません。後でこの点について詳しく議論します。
一方で、競争者が政権を取ると、混乱が起きる可能性があります。現在は、官庁が全て一強体制に慣れているので、隅々まで忖度が行われています。安倍首相が直接いわなくとも、こう思っているだろうと忖度して、...