●2018年、アメリカの対中関税攻勢が激化
今回のシリーズではアメリカと中国の貿易戦争、通商関係についてお話ししています。
先ほどお話しした通り、アメリカが中国に対して2018年から追加関税を掛けるということを行っています。重要なポイントは、アメリカにおける中国からの年間輸入額が約5000億ドルという規模に達しているということです。当初、500億ドルの輸入に対して25パーセントの関税を掛け、その後、2000億ドルの輸入に対してさらに10パーセントの関税を掛ける。こういうことが発表されています。
500億ドルに対する25パーセントの関税なのですが、アメリカにおける中国からの輸入全体が5000億ドルですから、この5000億ドル全体にまぶせば、大体2.5パーセントということになります。一方で、同じように2000億ドルに対する10パーセントの関税という形で計算していくと4パーセントとなり、2.5パーセントと4パーセントを足すと、6.5パーセントということになります。
●追加関税で元安が進む
2018年6月、シンガポールでの米朝首脳会談を終えたドナルド・トランプ大統領がアメリカに帰国した直後、この関税政策の実施を発表したわけなのですが、そこから急激な元安が始まっているのです。元相場はその当時、大体1ドル6.4元くらいだったのですが、それからいったん1ドル6.9元台くらいまで元安ドル高が進みました。
ちょうどこの6.9元台あたりというのは、6.4元から関税政策の影響と考えられる6.5パーセントを元安方向に持っていった6.8元台くらいのところと一致するわけですが、それくらいまで元安が進んだということになります。そこで、中国としてはいわゆる金融緩和を行ったり、財政措置を打ち出したりしながら、アメリカの関税政策からくる悪影響を緩和しようとしていたわけですが、それと同時に人民元が安くなるということが起こりました。見方によっては、通貨政策が発動された格好になってきていたということです。
ここで重要なのは、2000億ドルに対する10パーセントの関税がさらに25パーセントに引き上げられるだけでなく、さらに500億ドル、2000億ドルときた関税の対象に加えて、2670億ドルにも関税をかけるかもしれないとトランプ大統領が言っているということです。このような状況に至ったときには何が起こるかというと、さらに元安が進むリスクが出てくるということです。
●元安傾向で中国の資本流出の加速が懸念される
今、見ていただいているグラフは、人民元の対米ドル相場とユーロの対米ドル相場の動きを示したもので、基本的には人民元が通貨バスケット制という少々特殊な通貨制度を採っている関係もあり、ドルのユーロをはじめとしたそれ以外の通貨に対する方向性に、大体元相場が並行して動くという傾向がうかがえるのです。
2018年に関していうと、アメリカの関税政策の悪影響をオフセットする必要もあって、ユーロ、ドルが示唆する水準よりも元安が進んでいたということが分かるかと思います。この水準は実は6.9元くらいまで来ていたのですが、これは2016年末につけた元安水準なのです。ですから、さらにここから追加関税ということになってくると、もしかしたら2016年の元の安値を超えて、7元台、場合によっては8元台まで元安が進むといったリスクを、マーケットは織り込もうとする可能性があります。
これがなぜ問題なのかというと、元安観測が高まるときに中国から海外への資本輸出が加速する傾向が、近年見られているからなのです。特にその傾向が端的に現われたのは、2015年8月に突如、対米ドルでの元切り下げを中国当局が発表した時です。
ご覧いただいているグラフの左下、これはあくまでも推定値で、中国へ海外からお金が入っているのか、それとも中国から海外にお金が出て行っているのかを示しているのですが、2015年8月の元切り下げの後、グラフがどんと下に伸びているのが分かります。このあたりでは、実は月々10兆円近くのお金が中国から海外に逃げ出していたのではないかという推計になっているのです。その後、このような資本流出は続いているのですが、中国政府が資本規制を強化したこともあり、大体抑制された状態になっています。
しかし、2016年の元の安値を超えて元安が進行するということになった場合に、資本規制でかなり押さえつけているとはいえ、この資本流出問題を中国がコントロールできるかどうかというのが、一つ焦点になる可能性があります。
●中国の景気後退、市場のリスク回避の可能性
このような資本流出の抑制、通貨防衛が必要になってくるときは、基本的には金利を上げないといけないのです。もしくは、国際収支を...