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中国は後発国時代のハンディを未だに享受している

米中の貿易戦争の行方と今後の日本の役割

伊藤元重
東京大学名誉教授/学習院大学国際社会科学部教授
情報・テキスト
世界の一大関心事ともいえる米中貿易摩擦。しかし、これは米中二国だけの問題ではなく、世界の経済体系にかかわるイシューであるといえる。アメリカが中国の通商政策を批判する根拠はどこにあるのか、中国は今度どのような対応に出るのか、そしてその状況下で日本はいかなる国際的役割を果たしていくべきか。
≪全文≫

●米中通商政策問題は世界にとっての構造的課題


 アメリカの中間選挙も終わって、世界の関心はアメリカと中国の通商政策、特に関税戦争に集まっています。そこで、今後の方向やあるべき姿について考えてみたいと思います。

 ご案内のように、中国の通商政策や産業政策に対して非常に厳しい議論をしているのは、別にトランプ大統領だけではありません。むしろ、共和党、民主党ともに米国議会の議員は中国に対して非常に批判的な姿勢を強めていますし、アメリカの国民の中にも、中国はフェアではないということを言う人は多くいます。そう考えると、米中の通商政策とか経済関係の問題については、ドナルド・トランプ大統領独自の問題というよりは、米中、あるいは世界の大きな構造的課題、テーマであると考えてみる必要があると思います。

 ただ、当面の流れですが、アメリカは厳しい姿勢を取り続けるとして、注目すべきは中国がどう対応するだろうかということです。これまでのところ、中国は非常に強い態度で反発してきましたし、アメリカからの圧力には屈しないという姿勢を見せるのが、今の習近平政権にとっては国内の政治的維持という意味でも重要です。したがって、なかなか米中の対立がどこかで緩和されるという見通しは少ないように思われます。


●経済的メリットを考えれば中国側譲歩の可能性も


 しかし、一部の中国関係の人が少々違った見方をしているというのも、関心の持たれるところです。彼らがどういう言い方をしているかというと、例えば台湾の海峡、南西諸島、あるいはウィグル地区の問題、これらのことはおそらく中国にとっては核心的利益に関するもので、こういうことに対して、アメリカから圧力があった場合、それで中国が屈するということはあり得ないけれども、経済的問題に対しては少し譲歩の余地があってもいいのではないだろうか、ということです。

 このようなことを、例えば中国の識者が新聞などでコメントしているのを見ると、確かに中国にとって、アメリカが要求していることに対して全面的に反発することが、経済的にメリットがあるかどうかということは、かなり疑問です。また、そこでさらに対立関係が深まることが、結果的に中国の核心的な利益に触れるような形で広がっていくことを、中国は決して好まないでしょう。ですから、どこかで少し中国の譲歩や妥協が起こるのではないかということも、可能性としては考えておいた方が良いと思います。

 アメリカが要求しているように、中国の市場を開放して、欧米のルールに整合的に中国が寄っていくということは、中国の経済的メリットを考えれば好ましいことであるわけです。ただ、中国政権としても、ある程度そこは理解しているとしても、国内の政治問題、あるいはアメリカの圧力に屈して中国が政策を変えたということを、国内ではどう見るかという問題があります。したがって、そう簡単ではないと思いますが、この点は注目しておく必要があります。

 いずれにしても、中国の経済的な問題に対する対応については、少し幅広く考えておいた方が良いでしょう。


●中国によるステイタス・クオー悪利用というアメリカの見解


 さて、アメリカについては非常に明快です。最近も、アメリカの専門家、例えば政府の中にいる人も、学者のように外にいる人も含めていろいろ聞いてみたのですが、何人かが言っていた言葉が非常に印象に残っています。それは「ステイタス・クオー」という言葉です。ステイタス・クオーとは、日本語に訳すと「現状」ですが、アメリカの何人かの専門家に言わせると、「ステイタス・クオーを中国は悪利用している」ということになります。中国が悪利用しているからステイタス・クオーを変えなければいけない、というような言い方をしているのです。

 このステイタス・クオーの中にはWTO(世界貿易機構)の仕組みもありますし、WTOだけではなく世界の通商システムの現状があり、その結果として自由な貿易や投資が伸びていることは間違いありません。


●中国は後発国時代に与えられたハンディを未だに享受


 では、なぜ中国がそれを悪利用しているのでしょうか。例えば、中国の関税が非常に高いからです。特に、自動車のような世界における大きな競争分野では高率の関税をかけています。また、投資に関しても、中国の企業がアメリカに投資する場合は、これまでは制限なく投資できたわけですが、例えば海外の企業が自動車や金融のような分野で中国に投資しようとすると、過半数のシェアを持たないように、つまり中国企業主導の合弁という形でしか投資が認められないのです。

 それに加えて、今まさに世界的に競争が激しくなっているAIやIoTにかかわる情報やデータの分野では、中国が独自の産業政策を展開しているのです。このように、中国主導...
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