トランプ政権の保護主義政策の影響
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
深刻な問題はWTOの機能が非常に劣化していること
トランプ政権の保護主義政策の影響(2)WTOの機能劣化
伊藤元重(東京大学名誉教授)
通商問題は、マルチ(多国間)、リージョナル(地域間)、バイ(二国間)、ユニラテラル(一国による一方的な貿易政策など)という、4つの次元を見ていく必要がある。中でもマルチに関して、WTOの機能が劣化していると伊藤元重氏は指摘する。それはどういうことなのか。また、日本は今後どうすればいいのか。(全2話中第2話)
時間:15分07秒
収録日:2019年4月16日
追加日:2019年5月26日
カテゴリー:
≪全文≫

●通商問題では4つの次元を見ていく必要がある


 こういう中で、では日本はどうすべきか。これはその方程式が多元的で、未知数も多くあるものですから、そう単純な議論はできないと思うのですが、いくつかポイントがあるのだろうと思うのです。

 通商政策だけに限定してもいいのですが、グローバルなシステムは少なくとも4つのレベルのチャネルが同時進行しているということです。

 1つ目がマルチで、「多国チャネル」ともいわれています。通商問題でいうと、WTO(世界貿易機関)が国際貿易機関として一番その基盤にあるわけですが、多数の国が参加したグローバルな仕組みとして、通商政策をどのように運用していくのかということです。

 2つ目はリージョナルで、地域でどう対応していくかということです。20年ほど前にできたアメリカが取り組んできたNAFTA(北米自由貿易協定。今は米国・メキシコ・カナダ協定<USMCA>という名前になっていますが)や、日本が取り組んできたTPP、日本とEUの経済連携協定、あるいはEUのように、3カ国以上巻き込んだ形で、地域でさまざまな貿易の自由化や通商ルールを決めたり、運営したりしていくというのが、リージョンというレベルです。

 3つ目は、日米や米中といった形で交渉あるいは提携しながらやっていく、バイ(バイラテラル、二国間)です。これは今、米中で行われている通商交渉やそれに近いもの、場合によっては貿易摩擦のような状況にいくケースもあると思います。同時に、例えば日本とシンガポールの自由貿易協定、あるいは日本とオーストラリアの自由貿易協定というように、むしろ前向きに貿易自由化を2国で進めていくこともあるかもしれません。これがバイです。

 4つ目は、ユニラテラル・アクションです。つまり、一方的な自由化ということで、相手を巻き込んでどうこうするということではなく、各国が自主的に自由化したり、あるいは逆に一方的に貿易を制限したりするということで、それも世界の通商システムにとって非常に重要な意味を持っているわけです。

 例えば、中国は2001年にWTOに加盟してマルチの仕組みの中に入っていくわけですが、そこから20年以上前の1978年に鄧小平が再度政権を握った以降、いわゆる改革開放ということで、自ら海外に対して市場を少しずつ開いていくことによって、経済を活性化させてきたわけです。これなどは、通商システムと...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「政治と経済」でまず見るべき講義シリーズ
ポスト国連と憲法9条・安保(1)国連の構造的問題
核保有する国連常任理事国は、むしろ安心して戦争できる
橋爪大三郎
グローバル環境の変化と日本の課題(1)世界の貿易・投資の構造変化
トランプ大統領を止められるのは?グローバル環境の現在地
石黒憲彦
デジタル全体主義を哲学的に考える(1)デジタル全体主義とは何か
20世紀型の全体主義とは違う現代の「デジタル全体主義」
中島隆博
緊急提言・社会保障改革(1)国民負担の軽減は実現するか
国民医療費の膨張と現役世代の巨額の「負担」
猪瀬直樹
外交とは何か~不戦不敗の要諦を問う(1)著書『外交とは何か』に込めた思い
外交とは何か…いかに軍事・内政と連動し国益を最大化するか
小原雅博
日本人が知らないアメリカ政治のしくみ(1)アメリカの大統領権限
権限の少ないアメリカ大統領は政治をどう動かしているのか
曽根泰教

人気の講義ランキングTOP10
平和の追求~哲学者たちの構想(1)強力な世界政府?ホッブズの思想
平和の実現を哲学的に追求する…どんな平和でもいいのか?
川出良枝
プロジェクトマネジメントの基本(3)プロジェクトのすすめ方
PDCAサイクルを回すための5つのプロセスとそのすすめ方
大塚有希子
エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(1)サイバー・フィジカル融合と心身一如
なぜ空海が現代社会に重要か――新しい社会の創造のために
鎌田東二
葛飾北斎と応為~その生涯と作品(1)北斎の画狂人生と名作への進化
葛飾北斎と応為…画狂の親娘はいかに傑作へと進化したか
堀口茉純
熟睡できる環境・習慣とは(3)睡眠にいい環境とお風呂の入り方
布団に入る何分前がいい?入眠しやすいお風呂の入り方
西野精治
中国共産党と人権問題(1)中国共産党の思惑と歴史的背景
深刻化する中国の人権問題…中国共産党の思惑と人権の本質
橋爪大三郎
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み
なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み
今井むつみ
定年後の人生を設計する(1)定年後の不安と「黄金の15年」
不安な定年後を人生の「黄金の15年」に変えるポイント
楠木新
内側から見たアメリカと日本(6)日本企業の敗因は二つのオウンゴール
日本企業が世界のビジネスに乗り遅れた要因はオウンゴール
島田晴雄
習近平中国の真実…米中関係・台湾問題(1)習近平の歴史的特徴とは?
一強独裁=1人独裁の光と影…「強い中国」への動機と限界
垂秀夫