●市町村数の消滅に歯止め! 地方創生は急務
アベノミクス新成長戦略の次のポイントは、地方創生です。これは、急に浮上してきた大戦略と言われていますが、一番インパクトを与えたのは、増田レポートです。岩手県知事だった増田寛也さんが、実は、2014年5月の日本創成会議に、こういうレポートを出しました。
今、日本全国には1800弱の市町村があるのですが、現状、やはり全国各地から東京に人口がじわじわと動いているのです。その人口移動のパターンを前提に2010年を起点にして、国勢調査を使って2040年を予測すると、子育て世代、子を産める世代となる20代と30代の女性の比率が5割を切る市町村が、896になると言うのです。子育て世代の女性比率が5割を切ると、結婚などの関係からいろいろ推察して、そういう地域はもう自然に縮小する以外に道はなくなり、あと20年もすると本当に消滅してしまうのだろうと思います。
●出生率引き上げで人口1億人を目指す
この前、私が学長を務める大学との関係で青森の弘前市に行ったのですが、非常に立派な町なのですけれども、弘前は「消滅都市」と予告されているのですね。何しろ896もの市町村が消滅ですから、これは大変なインパクトを生んで、さすがに安倍政権も座視できなくなったのです。何とかしましょう、地方創生だ、と言い出したわけです。
そして、経済財政諮問会議でだいぶ元気のいい意見が出て、日本の人口を、2060年には1億人に維持すべし、と提言しました。現状はどういうことになっているかと言うと、2015年で1億2700万人くらいです。10年単位で計算すると、50年後には実は8600万人になるという計算になっているのです。
これを1億人にすると言って、どうしたらできると思いますか。今の出生率は1.43ぐらいですが、これを2.07まで引き上げなければいけないのです。絵に描いた餅のようなものですけれども、真面目にこういうことを議論しているのです。
●地方創生の「長期ビジョン」と「総合戦略」
とにかく、人口減少対策をして地方創生をやりましょう、ということになって、 石破茂さんが地方創生担当大臣になり、2014年9月に地方創生本部が設置されました。また、地方創生法が2014年11月に出来ました。そして2015年1月、国が「長期ビジョン」を発表しました。同時に「総合戦略」を描いて、一部公表されていますが、例えばこのようなことです。
「長期ビジョン」では、「子どもを産みたい、持ちたい」と言っている若者たちの希望が実現した場合、出生率を全部足すと1.8になるのだから、それを実現させましょうとか、地方に雇用機会をつくるので、地方に移転した企業には税制優遇をします、などといったことを盛り込んでいます。「総合戦略」では、若者向けの雇用を地方に30万人創出すると言って、そのために、あれこれ合わせて1兆円ぐらいの付加的な予算を組んでいるのです。
石破さんは、「これは予算のばらまきではないですよ」と強調して、こう言っています。つまり、地方にいろいろと意見を出させると、いろいろと重複するけれども、それを中央で全部集めて、重複がないようにしてメリハリを効かす、と一応は言っているのですが、地方の方ではもう全部お金をもらえるものだと思って、シンクタンクなどに頼んでいる、そういう状況です。よくあるように、表紙だけ違うけれど中身はほとんど同じというプランが今、どんどん出回っているのです。石破さんは、それを選り分けると言ってはいますが。
●2050年国民負担率70パーセントの見積もり
社会保障改革はどういうことになっているかというと、こちらもなかなか大変です。今、日本の高齢者人口は全体の25パーセントです。所得に対する税金と社会保障の負担額の合計の比率を、国民負担率と言います。
社会保障は出入りができませんので、税金と同じで支払う義務があります。この二つを合わせると、大体所得の4割になるのです。500万円の所得の方は、手取り300万円にしかならない。これがどうなって行くのかというと、2050年には高齢化率40パーセントになるので、大和総研がいち早く数年前に概算したところによると、国民負担率は73パーセントになるそうです。これはどの機関が見積っても負担率70パーセント前後になります。
●大変な負担率を追うしかない次世代
このような負担率でどうするのですか。500万円の所得で手取り170万円ということでしょう。暮らせるわけがありません。江戸時代に、半分を年貢として納めさせ、半分を農民の取り分とした「五公五民」という租税の徴収方法があり、今、政府ではこの「五公五民に」と言っていますが、あとの22、3パーセントを...