●「安倍政権でこれから4年」を念頭に「アベノミクス」とは何なのかを考える
「アベノミクス2年間の経験とこれからの日本経済」というテーマでお話しします。
安倍晋三首相が選挙で勝って、気が付いてみたら、順当にいけば、あと4年間は安倍政権なのですね。これからの4年間は、多分日本の大きな転換期で大変だと思うのですが、そのようなときに全部、安倍政権にわれわれは命運を委ねるような格好になるわけです。
「アベノミクス」と言われていますが、本当のところ、アベノミクスとは何なのかということを、過去のことも踏まえながらじっくり理解して、問題があるのならあるように、また課題が何なのかということも確認しておく必要があると思った次第です。今日は、ちょうど「島田塾」の講義も120回のいい節目ですし、年頭にも当たっていますので、皆さんと一緒にアベノミクスを考えてみたいと思います。2時間という特別な時間をいただいていますけれど、一緒に考えたいと思うのですね。
●過去最低の投票率で国民の信認を得たか?-アベノミクスの真価を見極める時
まず衆議院選挙ですけれども、自民党は圧勝して与党で326席を取っています。衆議院の絶対安定多数が266席ですから、何をやっても大丈夫というようなことになったわけです。ところが、投票率が52.66パーセントで、戦後最低でした。前回よりも7パーセント近くも低いのです。
このことは、非常に世界中の関心を呼びました。『フィナンシャル・タイムズ』紙をはじめ、いろいろな新聞が、「自民党は確かに大勝したけれども、得票率が低く、野党が準備不足でかなり混乱しており、国民にとって他に選択の余地がない選挙だったのではないか」と書いています。また、「アベノミクスへの信任を問う、と安倍首相は言ったが、自民党が勝ったからといって、国民の信認を得たかどうかは不明だ」というのが、多くの新聞の論調です。
ただ、今申し上げたように、この結果、国民は安倍政権に4年間命運を託すことになるので、本当によく見つめていかなければいけません。
安倍政権の最大の課題は、恐らく経済を本当に浮揚させられるのかどうか、ということです。実質賃金の向上、財政問題、社会保障問題、全てしっかりとアベノミクスが成功して成長してくれないと、これらの問題は解けないので、しっかり見ていかなければいけないと思います。
●ここまでのアベノミクスの総合評価-脱デフレマインドを狙った「第一の矢」
まず、アベノミクスの2年間を、総合的にざっと評価してみたいと思います。やはり、アベノミクスとは何だったのかということを確実に知った上で、批判するなら批判する、課題を考えるなら考えていかなければいけないと思うのです。
アベノミクスが三本の矢から構成されているというのは、皆さん、もうよくご存知でしょう。第一の矢は、異次元的な金融緩和ということです。この島田塾に、1年半ばかり前に菅義偉官房長官がお見えになりました。あの時、菅さんがどのようなことをおっしゃっていたかというと、「日本はこれまでの20年間を失ってきた」ということです。つまり、世界史でも珍しいデフレが続いたわけです。
「その時、政治家は一体何をしていたのか。財政政策は財務省に任せ、金融政策は日銀に任せ、と無責任だったではないか。デフレなのだから、貨幣供給を増やせば何とかなるというのは、誰が見ても分かることなのに、なぜそれをしなかったのか」という議論になった。そこで、政治家の責任を果たすということで、数人のアドバイザーたちを呼んで、菅さんは勉強会をずっとやっていた。そこへフィリピンから当時、アジア開発銀行総裁であった黒田東彦さんも、毎月のようにやってきていたというお話を、菅さんはしておられました。
その趣旨は何かというと、国民がデフレマインドに落ち込んでしまっているので、これをインフレマインドに変えよう、ということなのです。デフレマインドとは何かというと、デフレのときに一番賢い過ごし方は、持っているお金を使わないことです。使わなければ徐々に価値が高まります。投資もそうですね。物価が下がりますから、売上が同じだけの活動では物価が下がってくるのは分かりきっているので、よほど特殊な条件がければ投資はしないということで、消費も停滞、投資も停滞と、実際にそのようなことが起きていたのです。
これは、ある意味では賢い経済選択なのですが、ということは、何も動かないということです。動かなければ経済は循環しなくなりますから、やがて収縮していくのであって、これはやはり命とりの病気です。
それをインフレマインドに変えたい。インフレになったらどういうことになるかというと、お金を使わないと目減りしますから、投資するなり、活動す...