●日本再興戦略(1)日本産業再興プラン~経済の新陳代謝を早める
安倍晋三首相が2013年に発表したのはどのような成長戦略かというと、これには「日本再興戦略」という名前が付いているのですが、ざっと見て三つのアクションプランから構成されています。
その一つが、「日本産業再興プラン」といいます。これは一言で言えば、経済の新陳代謝を早めるというもので、民主党とは相当考え方が違うと思います。例えば、産業について言うと、日本には「ゾンビ企業」がたくさんあります。民主党の場合には、なるべく事を荒立てないように、軟着陸というか、いろいろな補助を出していたと思いますが、安倍さんはそれをざくっと削って、もっと成長志向、未来志向のところへ資金を動かすという考えです。
労働については、もっと決定的に違います。民主党は雇用保障ということを非常に重視していました。雇用調整給付金という制度がありますが、例えば、生産が10パーセント落ちたとすると、1000人雇っている企業は、100人解雇しなければいけません。ですが、「そういった場合、解雇しないでください」というのが民主党の方針でした。「労働省に申し出れば、審査の結果、中小企業なら賃金の3分の2まで補てんします。大企業でも半分補てんします」ということを、民主党はたくさんやりました。何千億円もこの雇用調整給付金に使ったのです。
これを安倍さんは10分の1ぐらいに削っています。「保障はしない。その代わり、次の未来型産業の方に移動してください」という方針です。これは新陳代謝ですね。そして、そういうものをトータルで促進する法律として、「産業競争力強化法」をちょうど1年ぐらい前の2013年12月に通しました。今、そこからいろいろな補助金が出てやっています。
●日本再興戦略(2)戦略市場創造プラン~新しい分野を市場にする
それから、もう一つは、「戦略市場創造プラン」というのがあります。これは、これまで市場とは考えられなかったような分野、例えば、健康やエネルギー、次世代インフラや、農村なども世界から稼げるものがあるではないか、そういう分野を市場にしよう、ということで、経産省が一生懸命書いたのですが、これは民主党の再生戦略とあまり変わりません。文章としては良く書けていて、今、動いているようですが、“See what happens.”ですね。
●日本再興戦略(3)国際展開戦略プラン~自由貿易の相手国を増やす
それから、三番目のプランは「国際展開戦略プラン」というものです。これは何かというと、自由貿易の相手の比率をうんと増やすというものです。今、日本は世界の中でトレードしている自由貿易の相手が19パーセントぐらいです。これを、当時から5年で、つまり、今から3年半で、ということですが、70パーセントへもっていくというのです。
どうしたらそのようなことができるのかと言えば、例えば、TPPです。TPPが実現すれば、おそらく3割か4割になります。それから、中国の習近平さんが唱えているRCEP(Regional Comprehensive Economic Partnership、東アジア地域包括的経済連携)。これは、TPPよりもう少し自由化ルールが緩くて、もっと大がかりな構想です。さらに大がかりなFTAAP(Free Trade Area of the Asia-Pacific、アジア太平洋自由貿易圏)など、いろいろあります。そういうものを皆、日本が強力なアクター、行為者として全部成立させていけば、70パーセントになるだろう、というプランです。確かに絵に描いた餅のようですが。
ご参考のために言いますと、お隣の韓国の朴槿惠大統領は、なんと昨年の11月にこの70パーセントを達成しているのです。数年前にアメリカと自由貿易協定結び、その後、EUと結んだのですね。そして、昨年の11月、習近平さんと調印して、とうとう70パーセントになりました。自由貿易の相手の比率をここまで増やすというのは、できないことではないのです。韓国は、このへんはものすごく一生懸命にやっています。
●効果が出るのに時間を要する構造改革-岩盤を突き破るために新成長戦略へ
こういう例を出して、安倍政権は胸を張って経済成長の成果を見せたかったのだと思いますが、これは構造改革ですから、効果が出るのに時間がかかります。こうしたプランがすぐ経済の成長に反映するというものではありませんが、成長を見るとどういうことになるかというのは、やはり政治家としては非常に気になるところでしょう。
この2013年前半はアベノミクスで株価が上がって、例えば、1-3月期の成長率は年率にすると4.9パーセントでした。これは高度成長です。4-6月期は3.5...