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鴻海のシャープ買収に産業構造転換の縮図を見る

ホンハイのシャープ買収―日本の対内直接投資を考える

伊藤元重
東京大学名誉教授
情報・テキスト
出典:外務省ホームページ (http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/taiwan/)より
国際経済学を専門とする学習院大学国際社会科学部教授・伊藤元重氏が鴻海(ホンハイ)のシャープ買収から日本の対内直接投資について解説する。マクロ経済的視点を持てば、日本に巨額の投資を呼び込んで経済を活性化するヒントが見えてくる。
時間:12:58
収録日:2016/04/20
追加日:2016/06/09
タグ:
≪全文≫

●鴻海のシャープ買収に産業構造転換の縮図を見る


 日本を代表する家電メーカーの一つであるシャープが、最終的に台湾の鴻海(ホンハイ)という会社に買収されたことは、皆さんご存知だと思いますが、これについていろいろな議論ができると思います。実際の当事者や業界にとってみると、シャープの経営が今後どのように展開されるのか、その中で日本での雇用が守られるのか、さらには今後企業の発展が見込めるのか、というようなことに関心があるのでしょうが、今回のシャープのケースでは、やはり日本のマクロ的な観点からもいろいろな議論ができるかと思っています。

 その前に事実関係として、シャープの買収に入った鴻海という台湾の会社について、少し印象を述べておきます。ご存知のように、一代の創業者の下、ここまで成長してきた企業で、中国に100万人ほどの労働者を使っているといわれているわけですけれども、アップル社のiPhoneをはじめとしてさまざまな製品を生産してきました。ただ、生産している製品については全てが、たとえばアップルだとかヒューレットパッカードだとか、また、いくつかの家電メーカーのものであり、鴻海でブランドをつくっているわけではないので、そういう意味では徹底的に組み立てや製造加工に特化した会社といえます。

 こういう会社が巨大な存在として成長し、ついにはシャープのような伝統ある会社に巨額の資金で買収に入ってくるというのも、一つの時代の流れなのかなと思います。簡単にいうと、部品を集めて製品の開発・製造を行い、それを販売するということをフルセットで一つの会社の中で全てやっていくというような時代から、まず生産をグローバルに行い、しかも、アップルに代表されるように、全ての生産工程を自分のところでやるのではなく、むしろ生産専門の鴻海のようなところに任せていくという、いわばグローバルな分業が出てくる時代へと世界の産業が展開されているとすると、今回の場合のようにシャープのような会社が鴻海に買収されたということは、個別の企業の事情は別として、ある意味では大きな産業構造の転換の縮図のようなものが出ているのかなと思われます。


●グローバル化に伴い重要な意味を持つ直接投資


 ただ今日、私がここで申し上げたいのはその話ではなく、いわゆる「直接投資」という視点からこの問題について少し考えてみたいと思っております。

 直接投資とは、直接に投資するということですが、これは皆さんご存知のように、企業が生産や研究開発、あるいは、販売という実際のビジネスを想定して海外に投資していくことをいいます。ですから、例えば、保険会社や年金が海外の株や債券を買うというのは直接投資になりません。これは、どちらかというと金融収益を想定した投資ですから、経済学の世界では間接投資、間接的な投資と呼びます。それに対して、ホンダがアメリカのホンダに出資しながらアメリカで生産活動をするとか、あるいは、日本の商社が現地でいろいろなものを調達するためにオーストラリアに投資する、ということを直接投資というわけです。

 近年では、この直接投資が非常に重要な意味を持っています。多くの時期において、直接投資が伸びていくスピードの方が、輸出や輸入など貿易が伸びていくスピードよりも非常に早くなっているという傾向が見えています。グローバル化の世界では既に、自国内でものを製造し海外に輸出をする、あるいは、海外からものを買うという時代から、企業そのものが国境を越えて出ていきグローバルにいろいろと展開するという時代になってきています。その重要なポイントとして、企業が直接投資を行うという活動が顕著になってきたのです。


●日本における直接投資の問題点


 この直接投資には、非常に重要な特徴があるといわれています。それは、双方向性、つまり、二つの方向性を持つということです。海外に向かって巨額の直接投資が出ていくと同時に、海外から日本に対して巨額の直接投資が入ってくるということをいいます。これはアメリカをみると分かるのですが、アメリカは大量に海外に投資をしていますが、海外の企業もアメリカに対して多くの投資をしています。欧州の企業も同じです。

 ですが、残念ながら日本だけそういう状況にありません。日本は他の先進国の企業と同じように、日本から海外に対する投資はそれなりに活発で、これは全く問題ないのですが、実は海外から日本に入ってくる投資は、非常に少ないのです。世界100数十か国のなかでも、対GDP比の対内直接投資、つまり外から直接入ってくる投資額の水準で言うと、今は下から四番目か三番目なのです。ある人によると、北朝鮮より下だと言われることさえあるそうですが、北朝鮮との比較はさておき、やはり日本に直接投資が入ってこないというこ...
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