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中国が経済成長できた4つの理由

中国経済の「ニューノーマル」

伊藤元重
東京大学名誉教授
情報・テキスト
習近平政権が掲げる「ニューノーマル」の真意は何なのか。改革開放以降の中国経済の動きを踏まえ、東京大学大学院経済学研究科教授・伊藤元重氏が、背景、課題、注目するべきポイントを読み解く。
時間:17:05
収録日:2015/08/05
追加日:2015/09/14
≪全文≫

●中国経済にとっての「ニューノーマル」


 中国経済は非常に読みにくい経済ですが、いま大きな転換点にあることは間違いありません。現在の中国の指導部は、習近平主席・李克強首相が率いていますが、特に経済は李克強首相が対外的な発信をしています。そこでキーワードとして「ニューノーマル」(日本語に訳すと「新しい秩序」)ということを盛んに言っています。

 このニューノーマルとはどういうことを言っているのかというと、成長率が下がることは、もはややむを得ないと。それが7パーセントなのか、6パーセントなのかは議論があるけれども、ある程度まで下がることは仕方ない。ただ、成長率を下げることと同時に、社会を改革することによって、中国は新しい形で今後も繁栄を続けていくのだというメッセージであろうと思います。では、このメッセージはどういうことなのか。今日はそれをお話しします。


●中国経済が急成長できた四つの理由


 私の結論としては、この方向性は正しいと思います。ただ、問題は、本当にそれをしっかりできるかどうかがポイントになるでしょう。それを理解するためには、過去に中国がどういう道をたどってきたのかを整理する必要があります。

 ご案内のように、1978年、鄧小平氏が主導権を握って改革開放という路線を打ち出しました。それから2008年リーマンショックまでの30年間、中国は平均約10パーセントに近い成長率で成長してきました。

 中国の30年間にわたる10パーセント前後の成長率の原動力は何でしょうか。いくつかキーワードを並べてみます。一つは輸出です。やはり輸出に引っ張られる輸出主導ということ。二つ目は、製造業のウエイトが非常に高かったということ。それから三つ目が、外資系企業の力を極めて多く使っていること。つまり、海外から企業に来てもらって、ものをつくって輸出してもらう。そして四つ目に、労働集約的な歳入、つまり、中国が持っている潤沢で豊富で安い労働力をフルに活用して経済を活性化させるということ。この四つだったのです。

 このことはいろいろなデータや中国の貿易政策を見れば明らかです。例えば、海外からものを持ち込んで中国の国内で売ろうとすると、比較的高い関税がかかるということがあります。あるいは、中国の国内で金融業や小売業をやろうとすると、やはり非常にいろいろな制約があります。ところが、中国の国内に工場をつくって、海外から資本設備や部品を輸入して、それを組み立てて海外に輸出する、いわゆる加工貿易をする場合、それにあたって海外から輸入する原材料や部品や資本財については、もうほとんど先進国並みの非常に低い関税なのです。

 これは明らかに中国は関税制度を二重の制度、デュアリティ(双対性・二元性)の仕組みにして、「国内にはものは入れないけれども、海外に輸出するための貿易は積極的にやります」ということです。これが成功して、中国は類いまれなほどの輸出で成長したわけです。

 もう一つ、非常に重要なのは、中国は、輸出も輸入も約60パーセントは外資系の企業がしているということです。直近の数字は見ていないのですが、2005年ごろに調べた際、非常に愕然としたものでした。ですから、中国の輸出・輸入の主力は、中国の企業ではなく外資系企業なのです。

 例えばアップルのiPhoneは中国で製造していますが、これをつくっているのは、台湾系のフォックスコン(鴻海)という会社です。フォックスコンが世界中から部品を集め、中国で大量に携帯電話をつくり、それを世界中に輸出しています。そう考えると、中国の輸出におけるアップルのiPhoneの数字は、外資系企業である台湾の企業の輸出ということになります。ことほどさように、外資系企業をたくさん使っているわけです。


●成長の限界


 中国はこういうことをずっとしてきたわけですが、2008年ごろの段階、あるいは本当はもう少し手前、2005~6年ごろから中国のいろいろな人がそう言っていたように、「この成長はいずれ限界になるだろう」と言われてきました。

 限界にくる理由は二つあります。一つは、中国自身が成功したものですから、中国の人件費が非常に高くなってしまったことです。マクロデータで見ても分かりますが、例えば、中国の一人当たりのGDPは、もはやタイの一人当たりのGDPよりも高いのです。ただ、ご存知のように中国は、一方では外資系企業が集中する沿海部の高賃金地域があり、一方にはいまだにものすごく貧しい内陸部に多くの人がいます。その平均がタイより高賃金ということですから、おそらく日本の企業などがあるような所の人件費や所得や賃金は、実際にはもっと高いわけです。つまり、中国はもう、安い労働力でものをつくって海外に輸出できる力を、どんどん失ってきてい...
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