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ウクライナ情勢をめぐるロシアと米欧の関係の緊迫化

ウクライナ問題を読む~米ロの動きを注視する中国と日本の外交姿勢への提言~

山内昌之
東京大学名誉教授/歴史学者/武蔵野大学国際総合研究所客員教授
情報・テキスト
2014年クリミア住民投票用紙(サンプル)
ウクライナ問題によりロシアと米欧が緊迫化する中、その影響は東アジアにも及ぶ可能性がある。ロシアとアメリカの動きを注視する中国。国際秩序を大きく揺るがすこの問題を歴史的見地から考察し、日本がどう向き合うべきかを提言する。
時間:16:16
収録日:2014/03/27
追加日:2014/05/02
≪全文≫

●ウクライナ情勢が国際秩序を揺るがす大きな緊張を呼んでいる


 皆さん、こんにちは。

 今、ウクライナ情勢をめぐり、ロシアと他のG8諸国、ロシアを除くG7の国々との関係が緊迫化しつつあります。また、ロシアとEU、ひいてはNATOとの関係も、ますます緊張の度合を色濃くしています。

 と申しますのは、現在のプーチン大統領によるウクライナのクリミア半島併合、すなわちロシアへの編入、ひいては東ウクライナに対するロシアの野望と目されるような現象が、この間につくられてきた国際秩序をロシアが否定するのではないか、あるいは、そういう否定の上に将来戦争と平和という問題がどのようになるのかという点で、国際関係に影響を与え、ひいては世界の人々を不安に陥れるからです。

 考えてみますと、今年2014年は、第一次世界大戦が勃発した1914年7月からちょうど1世紀を迎えようとしています。また、第二次世界大戦終結の1945年からは、およそ70年にあたる節目の年でもあります。すなわち、現在私たちが直面しているのは、20世紀から21世紀にかけて、ヨーロッパ、特に東ヨーロッパ、そして中東、あるいは東アジア等々で作られた国際秩序の枠組みを大きく否定する、あるいは否定しようとする動きが生じているのではないかということで、この動きには注目せざるを得ないのです。

 そもそも独立主権国家であるウクライナの一部を、力と自らのルールで分離、独立させ、そして、そこで自国、つまりロシアへの併合ということを既成事実として認めさせようとするならば、こうした動きは、他の地域において民族問題や領土問題を抱える各国の関係にも緊張を呼び込むことにほかなりません。

 ということで、ウクライナをめぐるアメリカ、ヨーロッパ、あるいはロシアとの緊張関係は今、国際関係の中心、焦点になってきているのです。その結果、昨今、その中心と目されたシリアの内戦問題、あるいはイランの核問題といった、中東イスラム世界の国際関係における緊張は、あたかも影が薄くなった感があるのです。


●ウクライナ問題による東アジアへの影響~米露の動きを注視する中国~


 しかし、重要なことは、ウクライナ問題が、ただ単に東ヨーロッパ、あるいはロシアの問題にとどまらず、実はその性格において、広く東アジアにまで及ぶものであることを見据えなくてはならないということです。

 なぜならば、このような現象がもし認められるとするならば、例えば東シナ海において、中華人民共和国によるわが国日本の南西諸島、沖縄に属する尖閣諸島に対する不当な干渉や、あるいは領土的な併合というものを実力で実現しようとする動きを招きかねないからです。これに関して、私たちはまことに留意しなければならない点です。

 したがって、ウクライナにおける大国の領土的な併合、そして自らのルールによる問題解決の手法というものにおいて、中国政府と中国共産党を率いる習近平氏は、じっとプーチン氏の動きをうかがっていると言えるでしょう。

 同時に、習近平氏が見ているものは、 オバマ大統領の姿勢です。オバマ大統領は、すでにシリア問題において、プーチン大統領に大きく譲歩した経緯があります。オバマ大統領は、シリアのアサド政権、アラウィ派のアサド大統領によるスンナ派を多数派とするシリアの市民に対する抑圧や、内戦による圧迫に対して、「レッドラインを超えたら必ず介入する」と言っていたにもかかわらず、プーチン大統領の妥協なき姿勢の前に、屈することになったのです。

 すなわち、オバマ大統領は、シリアの問題に対し、シリア国内の原子力、化学兵器をシリア市民に使わせないため国外へ移転、廃棄するという名目で、それらを持ち出させる形をとることで妥協し、問題をすり替えてしまいました。

 その結果、どうなったかと言うと、結局シリアにおける内戦は続き、スンナ派、あるいはキリスト教徒のシリア人を中心として、多くの市民たちがいまだに自国の政権、つまりアサド政権による抑圧に苦しんでいるのです。

 こうしたロシアの非常に強い姿勢、ある意味ではプーチン大統領の固く妥協することのないリーダーシップ、あるいは旧ボルシェビキの政権から生まれ、そして自らを世界秩序の中心、重要な極と位置づけるロシアを今、同じく共産党で、自らをアメリカと対等の新しい大国関係に築き上げようとしている中国が、まさに見習うべき点だと、 習近平氏が理解したことは想像に難くありません。

 すなわち、 オバマ大統領から力によって妥協を引き出すというプーチン大統領のやり方を、おそらく中国はいつか、ある適切なタイミングにおいて、東シナ海における尖閣、あるいは南シナ海や西シナ海における西沙群島において、自らの海洋権益と領土的な主権なるものを守るという形で見...
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