●2013年の交渉参加から3年、署名まで進んだTPP3つのポイント
先日、ニュージーランドで、日本から高鳥修一副大臣が出席して、TPPの署名式が行われたという報道がありました。日本がTPP交渉参加すると表明したのが、2013年の4月頃でした。実際の参加はもう少し後ですが、すでに2年半から3年近い時間がたったわけです。非常に大変な交渉でしたが、とりあえず署名まで進んだことは、大変素晴らしいことだと思います。
ただ、いくつか大きなポイントがあります。まず、本当にTPPがこの後、批准されるのかどうか。特にアメリカの動向を中心に、非常に注目されていることです。二つ目は、このTPPが、今後アジアから新しい参加国をどんどん吸収して、拡大していくかどうかということ。三つ目には、日本がTPPのメリットを最大限に享受し、一方で、TPPがもたらしうる問題点をできるだけ軽くするため、日本は何をしなければならないか。あるいは、そういうことを行った結果として、日本経済全体にどれだけのメリットがあるのか、ということをこれから少しずつ検証していかなければなりません。
いずれも、近未来を予想するのはなかなか難しいですが、今の段階でいくつか思うところを申し上げようと思います。
●不確定要素の多いアメリカ、まずは大統領選挙に注目
アメリカの批准について、これはやはりそう簡単な話ではありません。理想は、バラク・オバマ大統領の就任中、つまり今年の間にアメリカ議会を通過することでしょう。そのために、現在、オバマ政権は全力を尽くしていると思いますし、議会もそれに対していろんな動きがあるわけです。ただ、大統領の最後としてなかなか本格的な意味での影響力を及ぼしにくい、いわゆるレームダック状態になるともいわれていますから、このことだけに期待感を持つわけにいきません。
困るのは、仮にオバマ政権の間に批准がうまくいかない場合です。次の大統領に委ねられるわけですが、共和党候補のドナルド・トランプ氏、テッド・クルーズ氏、あるいは民主党候補のバーニー・サンダース氏は、明確に「ノー」を表明しています。今まさにアメリカ大統領選挙の話題の最中ですから、右・左というのが妥当かどうか分かりませんが、共和党の非常に極端な強硬派の人たちと、ある意味で非常にラディカルでリベラルな民主党のサンダース氏のような人が反対するのは当然だろうと思います。
仮にそういう人が大統領になったとすると、これは、TPPだけでなく、あらゆる意味でアメリカの経済社会や日米関係に大きく影響を与えます。ですから、そうなってしまった場合は、TPPの問題を超えて、日本はいろんなことを考えなければならなくなります。共和党の正統派というか主流派に近いジェブ・ブッシュ氏やマルコ・ルビオ氏といった人たちは、おそらくそんなに問題なくTPPに賛成する立場だろうと思いますが、非常に興味深いのは、クリントン女史(ヒラリー・クリントン)が、今のままではTPPに賛成できないと発言していることです。これをどう考えたらいいのでしょうか。
よくいわれる話ですが、夫であるビル・クリントン氏も1992年の大統領選挙のとき、今のアメリカにとってのTPPと同等あるいはそれ以上に大きなインパクトがあると当時いわれていた北米自由貿易協定(NAFTA)に強く反対して、大統領選を戦いました。NAFTAは、もともと“パパ・ブッシュ”(ブッシュ・シニア)ことジョージ・H・W・ブッシュ氏(共和党)がその前に打ち出した政策で、結局、大統領選の争点にもなってしまいました。クリントン氏は、これに反対して大統領になったのですが、大統領に就任して非常に早い段階で、前言を覆すような形でNAFTAをまとめに入りました。
その理由は簡単で、民主党から大統領候補に立つとなると、やはり労働組合といった人たちの支持を、ある程度、受けなければなりません。今のヒラリー・クリントン候補の立場でいえば、「TPPはぜひ進めるべきである」ということは、なかなか表立って言いにくいわけです。したがって、「今のままでは賛成はできない」というのは、非常に分かりやすい発言だろうと思います。
ただ、もし実際にヒラリー・クリントン氏が大統領になった場合、その段階でアメリカの国益を考えたときにTPPを葬り去ることがあり得るかというと、これはなかなか難しいだろうと思います。中国の問題もありますし、アメリカのアジア太平洋地域におけるこれからの外交戦略の問題もあります。そして何よりも、TPPを進めてアジア太平洋にもっと出ていきたいと思う多くの産業がアメリカにあることも事実です。
ですから、いつアメリカでTPPが批准されるかについて、あまり楽観視してはいけないでしょう。けれども、あまり...