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「中国の夢」とは「中国人」という一つの国民になること

「ワン・ピープル、ワン・ネーション」をめざす中国

石川好
作家
情報・テキスト
北京オリンピック開会式典
近年活発化する中国自治区の独立運動と当局の軋轢は深まる一方だが、この問題の根底にある中国の大いなる夢とは一体何なのか。石川好氏が中国の二重構造に続き解説する。
時間:04:53
収録日:2013/10/31
追加日:2014/04/10
カテゴリー:
≪全文≫

●中原と少数民族自治区という二重構造


中国というのは内部の問題も二重構造になっています。今、例えばウイグル族が天安門広場で起こしたあのような事件というのは、「もしかしたら独立運動のテロではないか」という論調が出始めています。
しかし、みなさん、中国という地図を頭の中にイメージしてください。中国があります。大陸の中でいわゆる中国は、周辺14ヶ国と国境を接しています。この国境総面積は2万2千キロ。いわゆる中原というものと、この超大な国境線の中間にある省の名前をイメージしていただければと思います。
まず南のほうから言いますと、広西チワン壮族自治区というようになっています。広東省とか浙江省などのなんとか省ではなくて、「壮族チワン民族の自治区である」ということです。その上がチベット自治区。その横が今問題になっている新疆ウイグル自治区。その隣がモンゴル族自治区、内モンゴル自治区ですね。
本来なら、旧満州のあたりだと満州族自治区になるはずなのですが、そこにはもう満州族というのはほとんどいないものですから、黒龍江省とか吉林省になっています。その下のほうには、本来であれば、朝鮮族というものがいるわけで、本当は朝鮮自治区があるはずなのですが、吉林省や遼寧省などには自治区ではなくて、朝鮮族自治州や自治県などがあります。省の中に集住地域が何十もあるのです。 しかし、北朝鮮というのは、中国の見方からすれば独立した北朝鮮族自治区ではなくて、北朝鮮族自治国という見方をするのです。
つまり、今なぜそういうことを申し上げたかと言いますと、中原といういわゆる中国文明の中心があって、その外側はまだ中国になっていない。チワン族自治区、チベット族自治区、ウイグル族自治区、モンゴル族自治区は、そういう形で省になる手前なのです。
つまり、「まだ彼らは中国になっていない」ということです。だから、自治区という名前で少数民族の名前を残しているのです。

●中国の夢-「中国人」という1つの国民に!


中国の今の理想からすれば、やがてその自治区から例えばチワン族という名前が消えて広西省に、あるいはチベット自治区というものの、そのチベット族の名前が消えて、なんとか省になる。新疆ウイグル自治区もそうやって民族名が消えて省になっていくということを、おそらく100年後ぐらいの先として、考えているはずなのです。
今の中国は、憲法上は56の民族で成り立っています。一番多いのは漢民族で人口の約90パーセント強。しかし、残る55の民族だけでも、約10パーセントということは、約1億3千万から4千万。日本の総人口よりも多い少数民族がいるわけです。
そういった背景を踏まえて、中国は「ワン・ネーション、ワン・ピープル」という言葉をオリンピックあたりで使い出したわけです。
それは、つまりこの中国という多民族国家が、初めて「中国人」という一つの国民になる運動を今やっている、ということなのです。ですから、ウイグル族のその独立運動やチベットの独立運動、モンゴル族の独立運動をいっさい認めないのはなぜかというと、あと100年ぐらいかけて「中国人」という一つの国民になろうということを、中華人民共和国は決意したからです。
これは初めて中国の歴史の中で、「中国人」という「ワン・ピープル」になろうということで、こういう意味でできたのが中華人民共和国なのです。ここはアメリカ合衆国と非常に似ています。アメリカ合衆国には、日本の移民もいればドイツ人もいれば他にもいろいろいる。しかし、「ここで生活したら全員がアメリカ人ですよ」という約束をしたのです。同じように、中国もいろいろな50いくつの少数民族も、やがて中国人としか名乗れないようにするということは、中華人民共和国という初めてできた中国の共和制国家の中の、一番の眼目なのです。
ですから、オリンピックのときは、「ワン・ピープル、ワン・ネーション」というスローガンがありました。中国の夢というのは、「中国人」という一つの国民になろうということであり、そのための運動をしているのです。そういうものが大いに根っこにあるということを、われわれは理解する必要があります。
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