●今さら国民投票、代議制の是非を論じても始まらない
イギリスのEU離脱問題(BREXIT)は、大変に興味をもたれた方もいると思いますし、驚いた人もいると思います。しかし、私は一年前に、この10MTVでイギリス総選挙の総括をした時に、「実はEU離脱の国民投票は考え直した方がいい」ということを言っているのです。また、伊勢志摩サミットの総括の時も、金融あるいは経済の下振れリスクよりも政治リスクの方が大きく、その政治リスクの一番目にイギリスのEU離脱を挙げています。そこで、今日はなぜこういうことが起こったのか、これからどうするのか、という話をしたいと思います。
国民投票それ自体に問題があった、という意見もあります。もし、国民投票をやるとするならば、私などもやっているように討論型世論調査と組み合わせることも一つの方法だろうと思います。離脱が決まってから、「EUとは何か」とグーグルで検索した人が多い、という笑い話もたくさんありますが、イギリスはもともとウェストミンスター型のシステムなのです。ウェストミンスター型とは何かというと、議会を中心とする政党政治ということなのですが、イギリスは国民投票を何度かやっています。実はこの国民投票は、モデルが違うのです。しかし、そのことをもって代議制に戻れ、議院内閣制に戻れ、議会主義に戻れと言っても、始まりません。
●そもそも他のEU諸国とは相当違いのあったイギリス
そこで、いろいろな解釈があります。例えば、これはグローバリズムとポピュリズムの問題だ、あるいは移民に対するナショナリズムの反応だなど、いろいろな話がありますが、主として「EU内にとどまれ」という意見には、経済的な議論が多かったわけです。
そういう意味でいいますと、現実にイギリスの移民問題にさらされている人たちとシティの反応は違いました。ですが、よくよく考えてみると、イギリスはもともとユーロには入っていませんし、またヨーロッパ間の移動の自由を認めるシェンゲン協定にも加わっていないわけですから、他のEU諸国とは相当違うのです。しかしそれでも、これだけ反発があったわけです。
●離脱決定の背景-拠出金と補助金の問題
私は、これまでグローバリズムの話を日本に置き換えて行ってきましたが、世界の中での流れをもう一度おさらいする必要があると思います。今回、結果が出てくる途中経過の頃から、社会的属性によって、例えば若者と年配者では態度が違う、あるいは学歴、所得、住んでいるところで態度が違う、方向性が違うという、言ってみれば後知恵分析がすぐにたくさん出てきたのですが、その詳細についてはあまりお話しいたしません。ただし、移民と社会保障の関係については、少し触れておいた方がいいと思います。
離脱派は、EUに対する拠出金として一週間で3億5000万ポンド(日本円に直すと約480億円)出しているということで、赤いバスに「3億5000万ポンド」と書いてキャンペーンを行っていたのです。しかし、投票が終わってから、実はその数字は正しくなかった、嘘だったことが分かったのです。現実にはその3分の1くらいではないか。つまり離脱派は、イギリスがEUにそれだけお金を出していて、離脱すればそのお金を国内の医療保険サービスに使える、他の財源に使える、というキャンペーンをずっとやってきたわけです。それを信じた国民もかなりいたと思います。
もう一つ厄介なのは、今EUに出す拠出金のことを話しましたが、EUからもらう補助金(政策資金のこと)との関係で申し上げますと、それぞれの国が出している分ともらう分があることです。これを一つずつ計算していくと、どこの国が得をしてどこの国が損をしているのか、という大変難しい問題があります。総じて言えば、ドイツ、フランスなどの大きい国は、出すお金の方が多分大きいだろうと思いますが、ただ、EU全体の外部経済で言えば、加入していることの経済的利得は非常に大きいわけです。それは残留派の人たちがずっと説いてきたことです。
ですが、補助金問題は案外忘れられている点で、イギリスは農業補助金が出るために、今まで荒地だったところを農地に変えていたのです。生産性は非常に低いのですが、補助金が出ると成り立ってしまいます。このようなサイドストーリーがあります。これが主として、なぜこのような決定になったのかの背景としてあるのです。
●イギリス保守党内部の対立という問題があった
これからどうなるかということを、少しお話ししておく必要があります。一つはなぜ起こったのかのミクロの話です。それは、先ほどウェストミンスター型ということを言いましたが、イギリスの政党政治を中心として成り立っている政党の一つ・保守党がガタガタになりました。また、労働党...