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●トライドッグ1号、鹿児島湾に潜る
続きまして、浦の三つ目のロボット「トライドッグ1号」が何をしてきたかをお話ししたいと思います。
それは、鹿児島湾の調査です。トライドッグ1号は、2001年、2002年にはほとんど完成の域に達しており、調査テーマを探していました。当時はそれでもかなり本格的だったのですけれども、このロボットは100メートルくらいしか潜れません。なぜ100メートルかというと、琵琶湖が一番深いところで104メートルだからです。琵琶湖を調査することは関西地区の水資源の管理という意味で重要で、実はわれわれは2000年に「淡探(たんたん)」というロボットをつくり、滋賀県琵琶湖研究所(現:滋賀県琵琶湖環境科学研究センター)が運転していました。それと並行して、コンセプトは若干違うのですが、われわれはトライドッグ1号をつくったわけです。実際に琵琶湖も潜っています。
2006年、トライドッグ号が鹿児島湾に潜る計画を立てました。鹿児島湾に「タギリ地帯」というところがあります。これは鹿児島の地図で、街はここです。桜島の北側のこの辺りに若尊(わかみこ)カルデラがあって、その近くが有名な菱刈鉱山です。世界で一番高い品位を持つ金鉱石が出ると言われています。そのすぐそばに、タギリ地帯があります。ですので、われわれは、山のように金があるのではないかというすけべ心を持ちながら行きました。タギリとは、下からあぶくが出てきて、まるでたぎっている、お湯が沸いているように見える場所のことです。実際に船で行くと、ぶくぶくと泡が出てきます。その近くにハオリムシサイトがあって、サツマハオリムシが棲んでいるのです。この辺りの海底地形図はこのようになっています。若尊カルデラは深さが200メートルほどで、その東に水深100メートルくらいの山があります。その山頂から温泉が出ていて、近くにサツマハオリムシという変わった生物がいるのです。
●サツマハオリムシ集落の全体像が見えてきた
これはトライドッグ1号が2006年に撮影してきた「サツマハオリムシ」です。ゴカイの仲間で、英語では「チューブワーム」と呼ばれる生き物です。硫黄細菌というバクテリアを自分の中に共生させて、その細菌が行う化学合成でエネルギーを確保しています。チューブワームは海底の熱水地帯に特有の生物で、アメリカのグループがガラパゴス諸島沖合の熱水地帯で最初に発見しました。このサツマハオリムシは、ガラパゴス沖合のような深いところではなくて、水深100メートルの浅いところに棲んでいる極めて特殊なチューブワームです。発見されたのは、つい30~40年ほど前のことです。
この写真は、いおワールドかごしま水族館で飼われているサツマハオリムシです。今、私の知る限りでは、いおワールドかごしま水族館や新江の島水族館などにいます。浅いところに生息しているので、比較的飼いやすいのだと思います。どちらかの水族館に行ったら、ぜひ見ていただきたいと思います。拡大するとこうなっています。サツマハオリムシには消化管はありません。つまり何も食べないのです。共生するバクテリアの化学合成だけで生活しています。
そのサツマハオリムシがたくさんいるハオリムシサイトにトライドッグ1号を潜らせました。これがトライドッグ1号が撮ったサイトの写真で、赤い箇所はゴカイの頭が出ているところです。周りには桜島の火山灰が積もっています。
こうした写真は今までは遠隔操縦のROVで捉えてきたのですが、われわれはロボットで海底の写真を撮って、それをモザイクにしていきます。1枚1枚の写真をつなげて、海底の全体の絵をつくるのです。これは最初につくったモザイクで、さらにその後、画質はよくなっていますが、ここにハオリムシたちのコロニーがあって、周りは火山灰で覆われているのが分かります。ここにも、ここにも、ここにもコロニーがあります。このあたりの海は割と濁っていて7~8メートル先は見えないのですが、これはロボットが1メートルから1.5メートルまで近づいて撮っているので、海底が見えています。
つまり、私たちはこうして海底のグーグル・アースのようなものを作っているのです。すると、今まで分からなかったサツマハオリムシ集落の全体像が見えてきました。今までは全体が見えなかったので、ROVで潜っても、どこがどうなっているかよく分かりませんでした。しかし、トライドッグ1号が7回潜航して、ずっと撮った写真をモザイクすることによって、これだけのコロニーがあることが分かったのです。これがコロニーです。コロニーだけを書き出すと、このようになります。コロニーはこのように盛り上がって、海底面から出っ張っているのです。このコロニーが一体どのくらいのボリュームなのかも分かります。


