●マクロン派「大勝利」の幸先よい船出
フランス国民議会の選挙結果は、皆さんもうすでにご存じだと思いますが、エマニュエル・マクロン大統領の「共和国前進(アン・マルシェ!、LREM)」が勝利しました。安定的な議会運営ができることになり、マクロン政権にはかなり幸先のいい船出だと言えるかもしれません。選挙結果の内容について、次の表でご覧いただきましょう。
共和国前進と民主運動が中道派で、「マクロン派」といえる党派です。この二つが、577議席のうちの350議席を取りました。大勝利です。次に、中道でいうと若干右派になる共和党は、議席を減らしました。前オランド政権時の与党であった中道左派の社会党は、もっと減らして30議席になっています。また、あれだけ大統領選挙で活躍し、票を取ったマリーヌ・ルペン氏の国民戦線がどうなったのか、興味のある方もいるでしょう。しかしながら、フランスの制度で少数党が勝つのはとても難しく、国民戦線は8議席に終わりました。
なぜ難しいのかを少し説明します。通常、過半数を取る選挙と比べ、比例代表制ならば少数党は当選できます。しかし、日本、アメリカ、イギリスのように相対多数の場合では割と難しくなります。ましてフランスの場合は絶対多数ですから、二回投票制で過半数を取らなければならないということです。一回目に過半数を取ればいいのですが、一回目で過半数を取る人は少ないので、上位二人の争いになります。こうなると、少数党にはさらに不利になり、勝利の難しい制度だといえるのです。
選挙にはいろいろな役割があります。支持された人が勝てばいいという側面もあれば、選挙の結果で政府ができるという側面もあります。加えて、泡沫ないし少数党を排除するという意味もあるわけです。ですから、フランスの場合は、少数党が生き残るのはなかなか難しいということです。
●新内閣は非政治家もふくむ「混成部隊」
今回の選挙結果としては、「第五共和政」としてフランス政治を長く形づくってきた共和党や社会党が衰退し、まったく新しい中道、つまり今まで議席のなかった共和国前進がいきなり300議席を取りました。同時に、この党は半数以上が新人で成り立っています。日本で新しい風が吹くと、「○○チルドレン」という人たちが当選しますが、それと似たような現象です。
フランスの場合、過去には兼職も可能でした。地方議員でありながら国会議員になることもできたのですが、今回の選挙からは禁止されています。それも新人を増やした一因だろうと思います。
それから、この内閣は、「コアビタシオン(保革共存)」をしなくてもいい、自前の内閣になりました。ただ、エドゥアール・フィリップ首相が共和党出身であるように、閣僚たちの背景をたどると、実は共和党や社会党、表中で「Modem」と記した民主運動という党の人が含まれています。
ですから、新しい党の人たちばかりから成り立っているわけではなく、過去にいろいろな党に属していた人たちや、半分ぐらいは「非政治家」がいます。民間人といっていいのかどうか分かりませんが、民主運動や市民活動をしていたような人たちです。よって、新しい内閣は、「混成部隊」といえるでしょう。
これからは、マクロン大統領ご本人がそうであるように、内閣が経験不足をどれだけカバーできるのかが重要になってきます。
実は、この閣僚名簿の中から、すでに4人辞任者が出ています。辞任の理由は、日本でいえば「勤務実態のないときに政治家秘書を雇った」というようなケースとよく似ています。マクロン政権には、対外的にEUのような国際政治問題があると同時に、フランス政治上のテーマとして、国内の政治倫理の確立が問われてきます。
●若いマクロン氏でも大丈夫というのが一般的評価
ところでマクロン氏の経歴は、非常に興味深いものです。もちろん若いということもありますが、一つは選挙中に話題になった夫人の存在です。24歳年上という説と25歳年上という説がありますが、いずれにしても年上で、演劇や国語の先生でした。結婚はずっと後になるのですが、マクロン氏が非常に若い頃から交際をしてきたという面白い経歴でも注目を集めました。
さらにマクロン氏の経歴を見ると、シアンスポ(パリ政治学院)からENA(フランス国立行政学院)というエリート中のエリートの道を歩んでいますが、本人は高等師範に行きたかったのではないかと思われます。高等師範は、どちらかというと文学や哲学が盛んな学校です。卒業後はロスチャイルド投資銀行に入行して、政治経歴的にはオランド政権時代に経済相などを務めています。
「これだけで大統領になれるのか?」というのが、多くの人の疑問です。ただ、今のところは、国際政治の舞台でウラジーミル・プーチン氏やドナルド・トランプ氏相手に...