ギリシャ問題を解き明かす~EUの問題点と日本への教訓~
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
借金をしつつ国民投票でEU改革案を採決するのは筋違い
ギリシャ問題を解き明かす~EUの問題点と日本への教訓~
政治と経済
曽根泰教(慶應義塾大学名誉教授/テンミニッツ・アカデミー副座長)
「ギリシャ金融危機には、日本にとって教訓になることがいくつもがある」と、政治学者・曽根泰教氏は語る。それは一体何なのか。ギリシャ金融危機を通して見えてくるEUの問題とは何か。曽根氏がギリシャ問題を解き明かす。
時間:15分49秒
収録日:2015年7月13日
追加日:2015年8月3日
カテゴリー:
≪全文≫

●これほど厳しい条件では問題が多すぎる


 今日は、ギリシャ問題を解き明かすということで、一般的に言われる「借金の返済」というギリシャ金融危機の問題、「国民投票」という手法の問題、「EUというシステム」の問題の三つについてお話ししたいと思います。

 借りたものは返すのは一見当たり前のことですが、実はなかなか厄介な問題をはらんでいます。一つに、自分で借りたものではない「過去債務」をどのように返していくかという問題があります。また、今回のギリシャ金融危機では、新たな融資が国民の生活改善に向かわず、借金の返済に回ることも問題です。その意味では、日本の「住専問題」やアジア金融危機などを思い出します。これらのときには、借り手の責任なのか、貸し手の責任なのかが問題となりました。今回も、貸した方が悪いという説も出ていますし、借りた方がなぜ無責任に借り続けたのかを問う視点もあります。

 今回の貸した方は、前回の金融危機で借金の問題をかなり解決したはずですが、いまだに尾を引きずっているようです。そこには、EU、IMF(国際通貨基金)、ECB(ヨーロッパ中央銀行)の主要3者の問題があるのですが、EUがギリシャに突きつけている条件が過酷すぎるのではないかということがあります。

 この話を聞くと、私にも記憶があるのですが、アジア金融危機の際には、IMFに対する強い批判がありました。当時専務理事だったスタンレー・フィッシャー氏が名指しでやり玉に挙げられ、少しやりすぎではないか、新しい現象が起きているのに古い処方をしているのではないかと追及を受けました。そのときIMFは、歳出を削減しなさい、増税しなさい、高金利を覚悟しなさい、構造改革をしなさいと、韓国、タイ、インドネシアといった国々に迫ったのです。これが、その前に起きたラテンアメリカ金融危機への処方箋と全く同じだったことから、「IMFの役割は構造改革を迫ることなのか」と、マーティン・フェルドシュタイン氏をはじめとする当時のアメリカの経済学者たちに厳しく指摘されました。しかし、今回の処方箋もまたアジア金融危機と似ています。古い処方箋なのです。

 そこでポール・クルーグマン氏やトマ・ピケティ氏などは、借金の棒引きは戦後責務の際にドイツも経験したではないかと批判しています。彼らは、「ドイツの一人勝ちなのに、これほど厳しい条件を突き...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「政治と経済」でまず見るべき講義シリーズ
産業イニシアティブでつくるプラチナ社会(1)「プラチナ社会」構想と2050年問題
5つの産業で「資源自給・人財成長・住民出資」国家を実現
小宮山宏
多数派が多数でなくなるとき
悩める多数派…なぜ「多数は少数の集まり」と考えるべきか
曽根泰教
2025年、どん底日本を脱却する大戦略(1)日本が凋落した要因を総覧する
日本凋落の「7つの要因」と「10の復活大戦略」
島田晴雄
デジタル全体主義を哲学的に考える(1)デジタル全体主義とは何か
20世紀型の全体主義とは違う現代の「デジタル全体主義」
中島隆博
トランプ政権と「一寸先は闇」の国際秩序(1)国際秩序の転換点と既存秩序の崩壊
経済秩序や普遍的価値観を破壊し、軍事力行使も辞さぬ米国
佐橋亮
中国共産党と人権問題(1)中国共産党の思惑と歴史的背景
深刻化する中国の人権問題…中国共産党の思惑と人権の本質
橋爪大三郎

人気の講義ランキングTOP10
産業イニシアティブでつくるプラチナ社会(1)「プラチナ社会」構想と2050年問題
5つの産業で「資源自給・人財成長・住民出資」国家を実現
小宮山宏
クーデターの条件~台湾を事例に考える(1)クーデターとは何か
台湾でクーデターは起きるのか?想定シナリオとその可能性
上杉勇司
エンタテインメントビジネスと人的資本経営(2)日本人が知らない世界エンタメ市場
実は「コンテンツ世界収益ベストテン」に日本勢が5つも!
水野道訓
学力喪失の危機~言語習得と理解の本質(1)数が理解できない子どもたち
なぜ算数が苦手な子どもが多いのか?学力喪失の真相に迫る
今井むつみ
今こそ問うべき「人間にとっての教養」(1)なぜ本を読むことが教養なのか
『人間にとって教養とはなにか』に学ぶ教養と本の関係
橋爪大三郎
習近平中国の真実…米中関係・台湾問題(7)不動産暴落と企業倒産の内実
不動産暴落、大企業倒産危機…中国経済の苦境の実態とは?
垂秀夫
ショパンの音楽とポーランド(1)ショパンの生涯
ショパン…ピアノのことを知り尽くした作曲家の波乱の人生
江崎昌子
編集部ラジオ2025(24)「理解する」とはどういうこと?
学力喪失と「人間の理解」の謎…今井むつみ先生に聞く
テンミニッツ・アカデミー編集部
経験学習を促すリーダーシップ(1)経験学習の基本
成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ
松尾睦
大谷翔平の育て方・育ち方(1)花巻東高校までの歩み
大谷翔平の育ち方…「自分を高めてゆく考え方」の秘密とは
桑原晃弥