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実は建国期から間接選挙!アメリカ大統領選の制度的欠陥

アメリカの凋落と大統領選の制度的欠陥

曽根泰教
慶應義塾大学名誉教授/テンミニッツTV副座長
情報・テキスト
予測が非常に難しいといわれるアメリカ大統領選で、共和党はトランプ氏、民主党はサンダース氏といった候補者が予想外の支持を得ている。この事実に、政治学者で慶應義塾大学大学院教授・曽根泰教氏は「アメリカの凋落」の影を見る。アメリカはなぜそうなってしまったのか。曽根氏が、大統領選を通してアメリカの凋落とその制度的欠陥について語る。
時間:12:57
収録日:2016/04/27
追加日:2016/06/13
カテゴリー:
≪全文≫

●大統領選の不思議-トランプとサンダース


 アメリカ大統領選は予測がつきにくいということを最初からずっと申し上げてきました。特にドナルド・トランプ氏はあっという間に消えるのではないかと、専門家ほどそういうことを言い続けてきたわけですが、このままいくと共和党の候補者にトランプ氏がなるのではないかと言われています。また、共和党がもし指名しなかったら、無所属で、無党派から出る可能性もあるということです。

 このように、「トランプ現象とは何か」ということが片方にあり、もう片方にはバーニー・サンダース氏がいます。これもアメリカの政治の中では大変珍しい例で、自分は「社会主義者だ」と名乗っています。社会民主主義者である人がどうしてこんなにヒラリー・クリントン氏を追い詰めているのか。つまり、誰も対等の競争相手と思わなかったわけですが、そのサンダース氏がまだ生き残っています。これは不思議なことです。


●人々の不満を吸収する左右の候補者たち


 この左右が出てきて、不満をぶつけているという見方が一つあります。それはその通りです。その通りですが、実は共和党の側からいえば、もっと極端な右がいたわけです。つまり、トランプ氏はどちらかというと穏健なのです。もちろん、トランプ氏の発言は大変過激です。彼の主張は確かに不法移民に対しては過激で、「メキシコとの国境に壁を作れ。壁の費用はメキシコに払わせろ」というような言い方をしています。特に不法移民、あるいはイスラム系の移民、難民に対して厳しいことを言うので、すごく極端な右と思われるかもしれませんが、イデオロギーポジションとしてはそれほどでもないのです。また、イデオロギーポジションでいうと、サンダース氏は明らかに左です。

 では、この左右両方は不満の吸収でいう点でみるとどうか。今まで、共和党系の人は不満をぶつけることがありました。共和党系でいえば、過去ネオコン(新保守主義、ネオコンサバティブ)があり、ティーパーティーがあって、これらによってアメリカの共和党の足腰は非常に弱くなったと、私は思います。イデオロギー路線であるために、ほとんどの共和党候補者はティーパーティーの主張をのまざるを得ないというような形になってきたので、非常に硬直的な市場原理主義的な立場を取ります。


●支持層の変化に「アメリカの凋落」を見る


 もう一つ、トランプ氏の場合、当初からかなり所得が低い、あるいは学歴も低い層だと言われている人たちがトランプ氏を支持し、トランプ氏のポピュリズム的な主張に拍手喝采して溜飲を下げるという現象がありました。今はそれにプラスして、もう少し広い層がトランプ氏を支持するようになってきたのです。これが少し危険な要素であるし、一言でいうと「アメリカの凋落」だということです。特に共和党系のアメリカには、昔の面影はないねというのが今の現象です。

 もう一つ、ヒラリー氏とサンダース氏の関係でいえば、ヒラリーの票が思ったほど伸びないのです。伸びないというのは、スーパーチューズデーぐらいまでにほとんど大勢が決まってしまうのではと思っていたら、そんなことはなく、特にサンダース氏に対しての支持があるということです。学生たちは、奨学金だ、やれ大学の授業料無料化だなどという話に拍手喝采します。意外なことに、割と所得が高い階層の私の知り合いなども、「ヒラリーじゃなくてサンダースだ」と言っており、これは少し驚きです。このように、サンダース氏はかなりの層から支持を得ているのです。


●トランプとサンダース、それぞれの強み


 つまり、いずれも不満があって、その不満にぶつけているという状態です。トランプに関していえば、自前のお金で選挙をやっています。日本だと金持ちは非常に毛嫌いされるのですが、金持ちは人のお金で選挙をやらないので、むしろ言いたいことが言えて、それに拍手する人もいるわけです。

 実のことをいうと、トランプ氏はあまりお金を使っていません。キャンペーンはものすごくお金がかかります。アメリカの選挙は世界の中で一番お金のかかる選挙なのですが、特にかかるのはテレビ放映です。ところが、放映をしなくても記者会見をやるというと、テレビ局がみんな来て中継してくれる。ただで放送して、テレビ、あるいはニュースの食いつきがいいというのがトランプ現象なのです。

 今までにもロス・ペロー氏、あるいはラルフ・ネーダー氏がいたということがありますけれども、「不用意に」という言い方は変ですが、一番視聴率が取れる、あるいは、番組として面白いので、どの局もどのチャンネルもトランプを丸ごと放送してしまうのです。これは悪循環といえば悪循環なのですが、それによってトランプ氏の人気がまた出てくるといったことが起こります。ですから、この部分はポピュリ...
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