●最もコストが安い発電は再生可能エネルギーだ
現在、エネルギーの分野で非常に大きな変革が起きているということは、皆さんご存じのことでしょう。2016年には、世界中で新しい発電所がたくさん造られましたが、そのうちのおよそ70パーセントは再生可能エネルギーの発電所です。風力発電、水力発電、太陽光発電の3つが中心ですが、地熱やバイオマスの発電所もあります。
そして、ガスと石炭を用いる火力発電所がおよそ25パーセント、残りの5パーセントほどが原子力発電所です。これが現代の世界が選んだ選択です。主として自由主義経済の下で、最もコストが安い発電は再生可能エネルギーだと認識され始めているのです。
●日本で20万円する電池をテスラモーターズは2万円で販売している
さらに、再生可能エネルギーでは風力と太陽光が中心になりますが、この2つは変動が激しい発電です。変動のための対策として、電池が非常に重要な役割を果たします。よく指摘されているのは、この電池が非常に高価であるという問題です。
しかし、電池の価格を調べてみると面白いことが分かります。1キロワットの電力を1時間供給するという意味で、1キロワットアワーが電池の主要な単位の1つになっています。1キロワットアワーの電池は、日本ではおよそ20万円です。ところが3年ほど前、同じ電池をアメリカのテスラモーターズが、日本円にしておよそ3万5千円で発売すると発表して、世界を驚かせました。今では2万円程度で売られているそうです。つまり、日本で20万円ほどで売られている電池をテスラモーターズは2万円で販売しているのです。
ところがある時、商社の方からこんな話を聞きました。リチウムバッテリーなどの蓄電池を製造している化学会社で、同じ電池を自動車会社に1万円で納入しているところがあるというのです。別の商社の方にこの話が本当なのかを聞いてみたところ、本当のことで、それどころか最新の納入価格では8千円だというのです。
この事態を皆さんはどのようにお考えになるでしょうか。日本で20万円で売られている電池が、2万円で市販されており、化学会社が自動車会社に納入している価格はさらに1万円から8千円にまで値下がりしているのです。
●きちんとした予測をしていれば、不思議ではない
ここで、2つのことを申し上げたいと思います。第1に、新しい技術をめぐって世界が競争を繰り広げると、非常に早く技術革新が起きるということです。第2に、私たち研究者はこの話を聞いても全く驚かないということです。
というのも、きちんとした予測をしていれば、こうした電池の価格が1万円を切るということは不思議ではないからです。今どのような電池が主流なのか。新しい技術と今ある技術を適切に動員して作れば、コストはいくらになるのか。原料を適切な価格で購入し、装置を作れば、その製造作業に何人必要なのか。私たち研究者はこうしたことを、経済モデルを作って評価しています。このようにすれば、例えば、5年たてば設備費が回収できると予測できます。
そして、こうしたモデルにしたがって、2014年に1万4000円になると計算しており、さらに2020年には6600円になると予測しています。ですから、納入価格が1万円を切っていると聞いても、全く不思議には思いません。むしろ、私たちが思っているよりも技術革新は速いのかもしれません。つまり、2020年に予測していた6600円というコストがすでに実現しており、それが8千円で売られているのかもしれないということです。あるいは、それに関しては、原料費が少し下がっている可能性についても考えています。
●日本では再生可能エネルギーの評価と予測ができていない
いずれにせよ、蓄電池も激しい技術革新の例であり、どんどん価格は安くなります。このように、再生可能エネルギーは非常に安くなってきており、さらに、中央の発電所から電力を配るという集中型から、あちこちで発電した電力を適切に再配分するという分散型へと、ソフトの技術もどんどん発達しています。したがって、今後も再生可能エネルギーはこうした方向に進んでいくでしょう。
こうした方向性を的確に見定めるためには、蓄電池の価格はいくらなのか、今後価格はどうなるのかといったことを、適切に評価し予測していくことが非常に重要な作業になります。ところが、今このことが日本ではできていません。現在の日本のエネルギー政策が間違っている背景には、こうした状況があるのです。