●時をへて急流に変化した日本の河川
小宮山 日本のほとんどの川は急流ですが、それに関してこういう事実があります。
今年(2015年)の日本国際賞は、東京大学名誉教授の高橋裕先生が河川工学の研究で受賞されています。先生は、日本にも明治時代から川のいろいろな変動を測定しているデータがあることに気づかれたのです。水位など川の流れの変化、明治時代からそれを1時間ごとに測定しているデータが本当にあって、その土地の人たちは、「最近は雨が降ると下流に洪水が来るのが速くなったね」というような話をしていました。高橋先生は、コンピューターがない時代に、その膨大なデータを分析されたのです。
そうすると、時代とともに降雨が下流に到達する時間が明らかに速くなっていて、その原因を調べていくと、河川をコンクリートで固めていっていることが問題だと、先生は気がつかれたわけです。自然の吸水作用や住民が水を取ったり流したりする様式を含めて、全体で治水を考えるべきだという考えを高橋先生は提示されて、今ではそれが日本では常識になっているのです。
●日本の小水力発電技術、アジアへの輸出に最適
小宮山 高橋先生は、アジアのモンスーン地帯の川も、ドナウ川、ミシシッピー川も調べているのですが、ドナウ川やミシシッピー川は日本と全然違うのです。あちらは雨が降ってから下流に来るまで10日くらいかかりますが、日本の川は雨が降ったら数時間でワーッと下流に来るのです。ですから、今の日本の政策は貯水もやり、場合によっては逃がす所もつくったり、流域全体で管理する方向になっているのですが、これが、モンスーン地帯には最適な方法なのです。したがって、日本で使った技術がアジアには出やすいのです。
小水力発電もその一つですが、一番典型的なのは実はゲノムなのです。日本でゲノム医療のようなものをつくれば、アジア人同士のゲノムの方が白人とアジア人よりも近いのです。欧米で開発したゲノム技術はなかなかアジア諸国には導入しにくくて、自国に合うように一回カスタマイズしないといけないけれど、日本で開発したものははるかに導入しやすいという例が、ゲノムではしばしばあって、一番分かりやすい例なのですが、自然環境でもそうなのです。そういう意味で、日本で開発した小水力発電の技術はアジアのモンスーン地帯、ベトナムやフィリピン、タイやインドネシアには持っていきやすいのです。
●小水力発電の可能性と大型発電の環境への影響
―― 小水力発電は創造型需要の最たるものですよね。今までなかったわけですから。
小宮山 そうですね。今までだと大きなダムをつくって水力発電をやりましょうか、という話になったのですが、それはすでにかなりやっていて、日本だと70パーセントはやっていますからね。では、ポテンシャルはどこにあるかというと、これからは中小力発電にあるということと、いま言った、どうやって治水をやるかということです。こういう話とものすごくリンクしてきます。
これは、まだきちんとは証明されていない、まだ研究すべきことだとは思うのですが、すでに中国が三峡ダムという巨大なダムをつくりましたよね。あの影響は、実は莫大だと思います。最近、クラゲなどが大量にやってくるでしょう。これは、あのダムによって、長江の量がすごく減っているからです。そうするとシリコン(ケイ素)など川によって運ばれていた元素が供給されないので、いろいろな植物プランクトンの態勢、分布等が変わっていて、それがクラゲの大量発生につながっている可能性が非常に高いと思うのです。これは、まだ証明はされていないけれど、根拠はあります。ですから、クラゲに限らず、あのような巨大なダムをつくっていくということが、本当にどのような大きな影響を環境に与えるかというのは、重大問題なのです。
―― 生態系を乱しているのですね。
●優先すべきは「小水力発電」というメリット
小宮山 それに、やはり魚が減ってしまいます。中国の人も、これからどんどん魚を食べるわけですが、その魚がいなくなるのです。
―― それも三峡ダムのせいかもしれないのですね。
小宮山 そうです。三峡ダムでは大量の水を蒸発させてしまうのですが、小水力発電なら蒸発させないですからね。水が流れている所から電気を取るだけです。どうせ遊んでいる所から、電気を取ろうよということで、場合によっては収益の半分を現地にあげますよという話はあってもいいと思いますが、いずれにしても、川を利用させるとか、させないとか、そのようなことは、本当は関係ないのです。現実には、いろいろあって大変ですけれどね。