●米中関係よりもイギリスのEU離脱の方が大きな問題
イギリスのブレグジット(BREXIT)についてのお話をします。どうしてイギリスは物を決めることができない国になってしまったのかというお話です。
私はこれまでテンミニッツTVで5回ほどイギリスのブレグジットについて触れています。
まず2015年のイギリス総選挙の時、デイヴィッド・キャメロン首相(当時)は「国民投票する」と言っているけれども、これは考えものだとお話ししました。それから2016年6月、EU 離脱に関する国民投票の結果、どういうことが起きるのかということで、この時には「EU 離脱によってイギリスの政党政治が崩壊する!?」ということをお話ししました。その次ですが、2017年6月にテリーザ・メイ首相が総選挙を行ったのですが、保守党は過半数を取れませんでした。この時は、EU の交渉は大変なことになるということで「メイ首相の誤算」ということをお話ししました。
さらに2017年7月、「ネットと現実―グローバル化時代の国境問題とは?」ということで、あえて北アイルランドとアイルランドの国境の話をしました。この国境の話は当初からずっとしていることです。つまり「最大のネックは国境ですよ」ということをお話ししてきたわけです。そして、2018年11月は翌年を予測してということで、2019年の一番大きな問題としてイギリスのEU離脱についてお話ししたわけです。
EU離脱というのはそんなに大きな問題なのかと思う方もいるでしょう。今日もある大臣の話を聞いたのですが、EU離脱が最大問題、つまり米中関係よりもイギリスのEU離脱の方が大きな問題だというのです。特に「合意なき離脱」になったとき、どうするかという緊急対応を考えなければいけない。今こういう状態だということです。そういう点では、日本にとっても影響が大きいのです。
●2度の「示唆的投票」はいずれも否決された
イギリスは今、いろいろな模索をしています。イギリス議会は3月下旬、いわゆる「示唆的投票」ということで8案を下院にかけました。これは拘束力があるものではないのですが、そこで多数が取れたかというと、8案とも全て否決されました。
この図は、多数つまり賛成が多い案の方から並べてあるのですが、それでも「EUとの合意には国民投票による承認が必要」とか、あるいは「関税同盟に残留」など、比較的受け入れやすいものであったにもかかわらず、全て否決されました。
さらにいえば、4月1日、イギリスは再度4つの案を投票にかけましたが、いずれも否決されました。具体的にどういうことなのかというと、一つ目は「EUの関税同盟に恒久的に残留」、二つ目は「EUの単一市場に残留し、アイルランド国境問題解決まで関税同盟にも事実上残留」、三つ目は「議会が可決した離脱案の賛否を国民投票にかける」、四つ目は「議会で離脱案が承認できない場合、合意なき離脱か離脱の撤回かを選ぶ採決を実施」です。これも拘束力がある裁決、決定ではないのですが、いずれも多数を取れませんでした。
われわれ政治学者は昔から、多数を構成するものは何かということを随分議論してきました。そのとき、「多数」という多数がいるのではなく、少数が組み合わさることで過半数を取れるという、その前提に基づいて多数決という制度が成り立つということを言ってきました。特に議院内閣制では、議会における議席数の多数によって内閣が構成されており、イギリスがその代表です。よって、多数から成り立つ内閣の提出する法案が採決されるのは当然なのです。普通であれば、です。
ところが、普通でないことが今、イギリスで起きているのです。その理由は、政治学者からいえば大変興味のあることですが、それは、イギリスあるいは世界にとっては大変な迷惑が生じるということになります。
●なぜEU離脱問題がこれほど混迷を深めたのか
では、なぜこんなことになったのか。そのことについて、いくつかお話しします。
一つ目は、メイ首相の判断ミスです。かつてキャメロン政権も総選挙をやりました。そして、かろうじて幸いにして多数を取れたわけです。メイ首相も、その任期の途中で総選挙をやることによって、党内の特に保守党内部の強硬離脱派を抑え込もうとしました。これはキャメロン政権の時と同じ発想なのですが、これが裏目に出た、つまり多数(過半数)が取れなかったのです。これが一番目の問題です。
それから、EU条約50条についてです。EUとの交渉過程で正式に離脱表明をしますが、そこでこんなに簡単に表明してしまっていいのか、つまりもう少し練った上で議論あるいは表明、意思表示をした方が良かったのではないか。これは後知恵ですけれど...