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イギリス保守党党首選挙にみる「合意なきEU離脱」の可能性

2019イギリス保守党党首選挙の結果とブレグジットの行方

曽根泰教
慶應義塾大学名誉教授
情報・テキスト
2019年7月、イギリスでは保守党党首選挙が行われ、EU離脱強硬派であるボリス・ジョンソン氏が圧勝した。ジョンソン氏の首相就任によって、イギリス政治は今後、どうなっていくのだろうか。イギリスは今、議院内閣制が機能不全となっているため、「合意なきEU離脱」となる可能性が高まっている。
時間:14:41
収録日:2019/07/24
追加日:2019/08/06
カテゴリー:
≪全文≫

●保守党党首選挙から見るイギリス政治の問題とは何か


 2019年7月に行われたイギリス保守党党首選挙の結果が出ました。一体これからどうなっていくのでしょうか。

 今回の選挙ではボリス・ジョンソン氏とジェレミー・ハント氏が戦い、ジョンソン氏が勝ちました。そこで、イギリス政治を考えていくため、保守党の問題、イギリス政治そのものの問題、そして今後のスケジュールの問題についてお話しします。


●保守党の党首選挙でジョンソン氏が圧勝し首相に



 選挙戦はジョンソン氏が圧勝しましたが、まずイギリス保守党の党首選挙のスタイルについて解説します。実は、イギリスには日本でいう首班指名選挙がありません。そのため、政権を取っている保守党の中で党首が決まれば、その人が首相となります。エリザベス女王のところで首相任命の儀式があるのですが、これはあくまでも儀式です。党首が事実上、首相であるということです。

 当初、今回の選挙では保守党の中に10人の候補者がいました。昔は2人が推薦すれば候補者になれる仕組みでしたが、現在は6人程度の推薦人が必要です。今回は10人もの候補者からスタートしました。

 候補者を絞り込むための投票が続くのですが、第2ラウンド、第3ラウンドと段階を経て下位を切り捨てていき、残りの候補者に対する投票が繰り返し行われていきます。この繰り返し投票によって最後の第6ラウンド目が終わった後、今度は一般党員の郵送投票が行われ、その結果、集計されたのが最後の数字です。一般党員は現在16万人弱います。

 そのうち約9万2千票をジョンソン氏が、ハント氏が約4万6千票を獲得し、ジョンソン氏の圧勝という結果になりました。しかし、そもそも昔の保守党および労働党と比べると、かなり党員が少なくなったという印象を持ちます。今回はイギリスに範を仰いている日本との視点から、イギリスにどこに欠点があり、何が問題なのかということを探りたいと思います。


●ジョンソン氏はイギリス政治を混乱させた張本人


 まず、ボリス・ジョンソン氏の立ち位置についてです。私はずっと一貫して、彼が保守党のポピュリストであるということを主張してきました。本来、保守党というのは懐疑主義的で、どちらかといえば経験主義的でイデオロギーを振りかざさないという意味での保守主義者が多かったわけですが、それに対してジョンソン氏はポピュリストだと思います。

 そう言い切って良いのかということもありますが、ジョンソン氏のEU離脱問題における立ち位置からして、彼はイギリス政治を非常に混乱させた張本人だと、私は考えています。

 彼は性格的には破天荒で、テリーザ・メイ氏に対しても、ハードなブレグジットを唱えました。経歴的にいえば、イギリスで名門家に生まれ、イートン校、オックスフォード大学出身であり、要するに「いいとこぼっちゃん」です。

 「いいとこぼっちゃん」という意味では、実はデーヴィッド・キャメロン氏もジョージ・オズボーン氏も、イートン、オクスフォードという組み合わせです。その組み合わせは最近あまり多くないのですが、この3人はイートン、オクスフォードです。ハント氏はイートンではありませんが、それでもやはり名門家の出身で、オックスフォード大卒です。


●ジョンソン氏の言明は本心なのか演技なのか


 ジョンソン氏がポピュリストであるということは、他の国のポピュリストと少し異なります。EU離脱のキャンペーンバスを私は何度も引用して、事実ではないことを言ってはいけないということを指摘してきました。彼の言っていることは100パーセント嘘ではありませんが、このバスのボディには、イギリスは3億5千万ポンドを毎週EUに拠出しており、それを取り戻せば、国民健康保険がカバーできる、といったことが書かれてありました。だから離脱すべきなのだ、というわけです。

 このバスに書かれた拠出額は間違っていません。ただし、全額取り戻すことはできません。すでにイギリスにはリベートが払われており、全額取り戻し使えるということはあり得ないので、この主張は誤りなのです。ですから、選挙が終わった後、ブレグジット党党首のナイジェル・ファラージ氏は全額取り戻すのは不可能だと言いました。ジョンソン氏はその点をはっきりさせておりません。

 その意味で、ファクト(事実)ではないことが述べられたため、国民は惑わされています。「惑わす」ということは、ある意味でポピュリズムの手法がここで用いられているのです。そして、それを悪びれずに発言してしまい、謝りもしないという点がジョンソン氏の特徴です。

 その点からして、ジョンソン...
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