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イギリスのEU離脱期限延長の真相

2019年4月BREXITの状況とその行方

島田晴雄
慶應義塾大学名誉教授/テンミニッツTV副座長
情報・テキスト
メイ首相はBREXIT(ブレグジット)において「民主主義を守るために国民投票結果を尊重する」とかたくなだが、イギリス議会は離脱派と残留派が対立したまま混迷を極めている。この問題は一体どうなるのか。島田晴雄氏が、2019年4月12日のEU臨時首脳会議直前のタイミングで、ブレグジットの経緯と現状、その行方について解説する。(2019年4月10日開催島田塾第167回勉強会より)
時間:08:06
収録日:2019/04/10
追加日:2019/04/28
カテゴリー:
≪全文≫

●イギリスのEU離脱期限延長の真相


 皆さん、今から1時間たつとヨーロッパで何が起きるか分かりますか。ベルギーのブリュッセルでEU臨時首脳会議が開かれるのです(注:日本時間2019年4月11日開催)。そこへテリーザ・メイ首相が出かけていきます。実はイギリスがEUを離脱するのであれば、少し前の2019年3月29日がその期限だったのです。しかし、イギリス議会が錯綜し意見がなかなかまとまらないものですから、メイ首相が「なんとかしてほしい」とEUに頼んだわけです。そこで、「4月12日までなら」と延長することになりました。

 なぜそのようなたった2週間たらずの延期になったのかというと、5月23日から(26日にかけて)ヨーロッパの議会選挙があるからなのです。EU二重構造になっていて、日本でいう内閣がEUの本部です。そして、そこの閣僚のような人たちが、エマニュエル・マクロン首相やアンゲラ・メルケル首相といった各国の首脳で、そこで実際の行政を行うわけです。

 ところが、やはり日本の国会のようなものが必要で、EU議会があります。EU議会はどこから選ばれるかというと、各国に割り当てがしてあり、選挙区のようにイギリスは何票などと決まっていて、選挙します。EUのメンバー諸国は、そこに市民から選ばれた議員を送るわけです。彼らは大きな事柄について決定権を持っていますが、実際の行政は首脳国の幹部がやっているという構造になっています。

 5月23日から5年に1回のEU選挙で議員を決めるわけですが、それの告示が4月12日なのです。イギリスはEUを離脱することになっているので、法律的にも5月の選挙にはイギリスから出る人はもういないのです。イギリスに与えられた議席は他の国に分けてしまっています。ですから、この5月を超えてイギリスがEUに残っていたら、選挙に出なければならなくなり、そうするとEUは法律を変えなければいけないことになります。


●メイ首相がEU離脱にこだわる理由


 こういう問題を抱えているため、EUとしては「延期は4月12日までしか許可しない」と言ったわけですが、当のイギリスではメイ首相がなんか代替案を議会に出しても全部否決されてしまいました。メイ首相は本当のことをいうと、辞めたいのでしょう。離脱が通ったら辞めると言っているのですが、議会は通さない。だから辞められないし、だからといって「辞めろ」と言う人もいない。

 結局、メイ首相がなぶり者のようになっていますが、彼女にも責任はあります。あまりにも頑固すぎるのです。

 私はメイ首相はもっと腹芸でやってしまうべきだと思います。なぜかというと、メイ首相は本当は残留派なのです。しかし、たまたま消去法で首相に選ばれてしまったので、「選ばれた以上は国民の投票結果を尊重しなければいけない」と、自分に言い聞かせているのです。彼女は中産階級の出で努力家ですから、つい頑固になってしまうのです。それが多分、いろいろな障害にぶつかって問題を解決できないようにしている原因だと思います。

 国民投票、つまりレファレンダムというのは「参考意見」なのです。イギリスは議会民主主義ですから、議会で決めたことが国家の方向を決めます。国民が意見を出したからといって、別に国家の方向を決めなければいけない理由はありません。そこで、「あの結果を尊重する必要はないのではないか」と議員が訴訟を起こしました。すると、高等裁判所は「国民投票には法的効力はない」と答えました。今度はメイさんがすぐに最高裁に上訴しました。そして、最高裁はこのように答えたのです。「国民投票には法的効力はないが、やはり民主主義を守るために国民投票の結果を尊重するという首相の意見は重要だ」。ということで、玉虫色のことを言ったものだから、メイ首相はそのままずっと突っ走っているのです。


●混迷を極めるイギリス議会


 そして、ブリュッセルの首脳会議でどういうことが起きるかというと、メイ首相は「6月の末まで期限を延ばしてほしい」と言っているわけです。そうすると、総選挙はどうするのか、ということになります。「全力で協力します」とメイ首相が言えば、「協力とはどういうことですか。議員を出すのですか」となります。しかし、もう議員を出すなどということはできません。そのために法律を変えなければいけませんから、多分、それでは間に合いません。

 こうなると、イギリスは何も決められません。かつての大英帝国の片鱗もありません。ぐちゃぐちゃの国になってしまったのです。昔は、世界各国がイギリスの民主主義や議会制度を、優れたモデルとして尊敬して見ていたわけです。明治維新の頃の日本もそうでした。しかし、今やその片鱗すらありません。でも、今でも大英帝国だと思っている人たちは、EUに支配されたくないので「離脱派」と称しているわけです。

 本当は、国民投票...
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