●2018年10月の保守党大会
テリーザ・メイ氏は帰国し、2018年10月に保守党大会があったのですが、その閉会前に演説を打ちました。持論のチェッカーズプランについて話をしたわけですが、非常に力がこもっていて、大会の空気を主導したといわれています。もし無秩序離脱が避けられないのなら、それも私は恐れないと、捨てぜりふをはき、「私の離脱方針に付いてきなさい」と言ったそうです。非常に迫力があったとイギリスの新聞は述べています。
ボリス・ジョンソン氏も演説しましたが、具体的内容は乏しくて、しかも、そこまで言うのなら自分で保守党党首選に出ればいいのに、そこに出る気迫もありませんでした。だから、大会はメイ首相ペースだったとイギリスの新聞は書いています。これがメイ首相の国内での復活を感じさせるかは疑問ですが。
●再投票問題への関心の高まり
一方、イギリス国内では国民投票の再投票をしたほうがいいという議論が出てきました。労働党は9割が、国民投票をもう1回やるべきだといいました。ジョン・カー上院議員というオピニオンリーダーで、EU条約の離脱条項の策定に携わった人で、この大変な長老も、国民投票をもう1回やったほうがいいと言っています。メディアが「どうしてですか」と聞いたら、インフォームドコンセント、つまり、よく分からない国民に選ばせても、まともな結果が出るわけない、というわけです。
スコットランド国民党という政党は、下院に35名も議員送り込んでいるのですが、この人たちは、もし再投票になれば疑いなくそれに参加して、イギリスのEUとの交渉が有利なほうに進むように議会について働きかけると言っています。ところが、再投票の議論は散々持ち上がるのですが、最終的には多分そちらの方向には進まないでしょう。それはなぜかというと、多くの識者たちは、再投票を行うことは、これでもってイギリスのデモクラシーが毀損するからだと考えます。また、国民を分裂させることになり、メリットは余りになさ過ぎるし、リスクは大きいからです。
私が2018年10月末にシティー・オブ・ロンドンで、金融の有力者とか大学関係者といろいろな議論をした時、皆さんの共通の意見は、「イギリスが民主主義国家として、国民投票の再投票をさせることは考えられない。なぜなら、それは国民への信義の問題だから」というものでした。ですから、これは不動の結果になっているのです。
●2018年10月のEU首脳会議における膠着
それで、10月のEUの首脳会議が開かれました。これは定例会議です。開催前にフランスのミシェル・バルニエ交渉官は、「今回の首脳会議は合意なき離脱を回復できるかどうか、決定的な瞬間になる」といったことを言いました。では、会議はどうなったかというと、イギリスを除く27加盟国の首脳は17日に夕食会をして、イギリスの離脱をかなり議論したのです。イギリスはその日は会議に行っていません。16日に閣議を開くものですから、EUの妥協案を検討しましょうということになっていました。メイ首相がその案を出せるかどうかが懸案でした。お互いに、ほとんど寸刻を争う努力です。
EUとイギリスは、27カ国の議会承認の手続きの時間を確保するために、10月首脳会談で全てを決めなくては間に合わないということです。11月には全部決まってないと、27カ国各国の議会承認の手続きは3か月以上かかるといわれているので、離脱協定案・政治宣言・合意を10月に目指すつもりにしていました。ところが、ザルツブルクの会議の非公式会談が大騒ぎになり、10月合意は無理になったので、ドナルド・トゥスクEU委員長はこういいました。
「10月の首脳会議で交渉の最大限の進展が確認できれば、11月17、18日に臨時の首脳会議を開いて合意を目指す」と言ったのです。では、進展がなければどうなるか。それは、合意なき離脱となり、漂流するということで、その心配が一気に現実になってきたということです。
では、この首脳会議はどうだったかというと、打開策がついにありませんでした。そこで、11月の最終合意を目指してきたイギリスとEUは、最終期限はクリスマスに延ばしましたが、だからといって解決する保証は見えません。この時、トゥスク委員長は「十分な進展はなかった」と淡々と語りました。
アイルランド紛争の再発を避けるために、イギリスとEUは「no hard border」、厳しい国境管理は避けるということは1年近く前に合意しているわけです。イギリスは具体的な解決策を示すとしたけれども、まだ解決策が出ていません。
そうこうしている間に、EUは、イギリスが2020年末という移行期間の最後までに解決策を見つけられなければ、北アイルランドのみを関税同盟に残すと提案したのです。メイ政権は以前にもこれに反発しており、それはイギリスの分断に等しいから駄目だ...