●合意なきBREXITの悪夢
今、BREXIT(ブレグジット)はどうなるかについて、世界の関心が集まり、世界中の皆さんが心配しています。BREXITが経済にマイナスということは分かり切っています。ヨーロッパ大陸で人・物・金・サービスの移動が自由でなくなるということは、経済に必ずマイナスになるからです。
それは皆分かっていますが、現在不安があるのは次のようなことです。2018年11月25日に、イギリスがEU(European Union、欧州連合)からどのように出ていくのかについて、EUとの間で正式合意が成立したので、全てがうまくいけばそのままEU離脱へと進んでいくのですが、イギリスの議会がテリーザ・メイ首相にかなり反旗を翻していて、場合によると議会を通らないかもしれません。そうすると、全部ご破算になってしまい、「合意なきBREXIT」ということになります。つまり、EUとは合意していますが、本家本元であるイギリスの議会が合意していないということで、このまま漂流するか、最初から交渉をやり直すか、あるいは国民投票をやり直すか、大混乱なのです。
さて、合意なきBREXITとは一体何なのか。イギリスは、これまでEUの加盟国として、投資・貿易・金融・雇用・運輸、あらゆる面でEUが持っている単一市場、それから関税同盟を活用して、関税は要らない・投資や雇用は自由・金融は国境を越えたライセンスが手に入る、としていたわけですが、これが、2019年3月末をもって合意なきBREXITになると、一挙に消滅してしまいます。イギリスは第三国の扱いになるので、そうすると、イギリスの国民、企業、イギリスを訪ねてくる人、イギリスで投資している人たちは、環境が大激変しますから、どのくらいのコスト、トラブルになるのか、見通しがつきません。これを「合意なきBREXITの悪夢」というわけです。
●EUとイギリスの間で2つの合意が成り立つ必要がある
イギリスのEU離脱は2019年3月末と予定されていますが、それが秩序正しく実現するには、EUとイギリスの間で2つの合意が成り立つ必要があります。
1つは離脱の条件。もう1つは、離脱した後にどういう通商関係を持つかという政治宣言です。その2つが成り立たなくてはいけません。それは、EUとの関係では基本的に、2018年11月25日に合意が成り立ったのです。
ところが、イギリスが国内で承認しないとなると大変なことになります。このようなことをしているのはイギリスの議会、特に下院です。野党はもちろん反対ですが、与党内にも強硬離脱派がいて、相当反対しています。それから、メイ政権は現在、細い糸1本でつながっているような政権で、北アイルランドのDUP(民主統一党)が支えているから何とかもっているのですが、ここが異論を唱えています。もし敵方に回るとメイ政権は崩れてしまいます。
●メイ首相が主張したいのは移民の受け入れ制限
このような、世界に大きな影響の出る意思決定を、イギリス国内の議会の反対派による反乱で、泥沼に巻き込んでしまうイギリスは一体何なのでしょう。われわれから見ると、非常に劣化している感じがします。イギリスは昔、世界の議会政治の先生だったわけですが、今はもう目を覆うばかりの劣化状態という感じがします。
BREXITにはBREXITの論理があるのでしょうが、EUには大原則があります。それは何かというと、EUができた理由は、ヨーロッパで戦争を二度と繰り返さないためです。だから、国家を超えた、超国家を目指すということです。国民国家は「モダン」といい、国民国家を超えた段階を「ポストモダン」といいますが、理想の超国家をつくっていく大変な努力をしたわけです。その基本的な前提は、単一市場の中で人も物も金もサービスも自由に移動できる、皆で力を合わせていく、という大原則です。これを守らなければメンバーとして認めないわけです。
ところが、メイ首相が提案する現実案は、物の貿易は自由だが、移民は制限するというものです。これは国内事情で、そのようなことをいうものですから、EUは「いいとこ取りでしょう」と反論するわけです。「チェリーピッキング」(詭弁術)といいますが、受け入れられないということです。ということで、メイ首相がイギリス国内の議論に妥協して、どうしても主張したいのは、移民の受け入れ制限です。
メイ首相は、実は政権を取ってからしばらくは強硬離脱派でした。ところが、いろいろ交渉を続けていくと、強硬離脱はほとんど破壊的だということが分かりました。だから、ある程度EUに妥協していくという、「穏健離脱」(SOFT BREXIT)といいますが、ここ数カ月のメイ首相はがらりと趣旨を変えて、SOFT BREXIT派になってきました。これが、強硬離脱派のボリス・ジョンソン氏などが「けしからん」と言って批判しているわけです。そのようなことを言うなら「大臣を辞める。造反す...