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メイ政権が提示した「チェッカーズプラン」の内容

BREXITの経緯と課題(5)チェッカーズプラン

島田晴雄
慶應義塾大学名誉教授/テンミニッツTV副座長
情報・テキスト
2018年7月にメイ政権は「チェッカーズプラン」と呼ばれる、BREXITの基本方針を提示した。だがこれに対して、EUは手厳しく批判した。ではチェッカーズプランとはどのようなものなのか。それがもとで閣僚の辞任騒動に発展した経緯とともに解説する。(全8話中第5話)
時間:12:06
収録日:2018/12/04
追加日:2019/03/11
カテゴリー:
≪全文≫

●2018年7月に提示されたチェッカーズプラン


 ここで、前回触れましたチェッカーズプランの中身を詳しくご紹介したいと思います。これは、2018年の7月初めに、EUに対して具体的なことを提案しなくてはいけないというので、基本方針を取りまとめた、98ページの文書なのですが、メイ政権の方針を体系的に記してあります。メイ首相はチェッカーズハウスという別荘を持っているのですが、そこに内閣の関係閣僚を招いて提示したことで、この文書は「チェッカーズプラン」と通称されるわけです。

 BREXITの交渉は、離脱協定案と、離脱した後の通商関係を詳しく記す政治宣言に大別されますが、このチェッカーズプランは政治宣言です。2017年末にようやく離脱協定がと認められましたから、今度は政治宣言が通らなくてはいけません。

 この白書の中で次のことがいわれています。基調として、EUと特権的な関係を保持する(「privileged link」)。イギリスは物についての自由貿易域(free trade area)を維持して、アイルランド国境を含め、国境の全てにおいていかなる摩擦も回避するように精緻に構築された仕組みによって、EUの関税同盟のメリットを全面的に教授する。しかし、イギリスのGDPの8割を算出するサービスについては、イギリスとEUとの間に、より緩やかな関係を提案する。すなわち、サービスについては、イギリスは自分で自分のルールを決める余地を残しておきたいということですね。

 物の自由貿易については、アイルランド国境も含めて、EUの関税同盟のメリットを享受し、国境の全てにおいていかなる摩擦も回避するように精緻に構築された仕組みを活用するとしています。これは、アイルランドのためにいっているわけです。

 この問題については前から、北アイルランドのDUPは、国境管理のない国境を実現するように厳しく注文を付けていましたから、この要請に応えるため、最初の頃は陸地の500キロではなくて、例えば港や、海に浮かんでいるフェリーの中で税関業務をしてはどうかという案をイギリスは検討したのです。ところが、これを行うとどういうことが起きるかというと、イギリスのフェリーの上でやると、EU地域に向ける商品をフェリーの上で税関業務するわけですから、EU諸国の国の権利である関税チェックをイギリスの関税管理が代行することになります。これは主権に関わる問題だとして、EUは論外にしたのです。


●EUは問題外であるとしてイギリスを厳しく批判した


 その後で、いろいろな試行錯誤あって、チェッカーズプランでは、先ほどもいいましたが、最先端のITを駆使した目に見えない方法で、事実上の税関業務を行うという夢物語を語っています。詳細は明らかではないのですが、例えば貿易商品にICチップを埋め込んで、税管理の現場で作業しなくてもICチップで全部チェックされるように、関税審査が目に見える格好しないで通ってしまうというのですが、こんな方法は、世界のどこでもまだ実行されたことはないので、EUの首脳から問題外だということになりました。

 メイ首相は、これまで離脱後には関税同盟を脱退する方針をずっと掲げてきています。EU側は、それなら離脱すれば自由貿易協定を結ぶのですよね、と。関税を下げたいなら、自由貿易協定が唯一の選択肢になるはずです。しかし、自由貿易協定なら原則として、税関手続きは必ず復活します。それから、EUへの輸出品がイギリス製であることを証明する原産地規則も適応されます。国境復活になるということで、チェッカーズプランのイギリスの提案は、関税ゼロで税関手続きも不要という、現状関税同盟の恩恵を享受しようというものですが、それだけを言っているということは、イギリスに非常に都合のいいことを書いているわけです。

 メイ首相は、半年前までは強硬離脱路線ですが、このチェッカーズプランも、完全に穏健離脱、SOFT BREXITです。イギリスの8割を占めるサービス、特に金融ですが、ここは独自のルールを設定する能力をイギリスはずっと持ちたいという主張をしているわけです。しかしその詳細については話していません。

 一方、離脱後もEUからビザなしの短期観光やビジネスは容認する。企業間移動や行動人材、留学生の受け入れは促進する。しかし移民は駄目だ、と言っているのです。

 そうなると、これを「チェリーピッキング」といいますが、いいとこ取りです。EU当局者は、全然駄目だと言っています。EUの首席交渉官でチーフネゴシエーターは、ミシェル・バルニエという人ですが、「イギリスは物の取引だけで単一市場型のメリットを享受して、サービスや人の移動の分野をそうした扱いから全く除外すると言っているが、これは許されない」と言っています。イギリスとEUがあたかも合同の関税領域にいるような状況をつくるIT技術などといっているが、これは全く...
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