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「クルドの悲劇」を招くシリア情勢の隠れたファクターとは

シリア情勢を読む~トルコの思惑とクルド「苦渋の選択」~

山内昌之
東京大学名誉教授
情報・テキスト
シリアからのIS掃討における一番の功労者は同地域におけるクルド人勢力だ。しかし、アメリカがIS排除という目的は達せられたと見てシリアからの撤退を決めると、トルコがクルド人勢力の拡大を警戒して即座にシリアへの軍事介入を開始した。丸腰でトルコ軍に立ち向かわざるを得なくなったクルド人勢力が取った「苦渋の選択」とはどんなものか。アメリカ、トルコの思惑を背景とするシリア情勢を解説する。
時間:10:49
収録日:2019/11/12
追加日:2020/01/10
ジャンル:
≪全文≫

●アメリカが退けばトルコが介入


 皆さん、こんにちは。

 「一難去ってまた一難」という言葉がありますが、中東、特にシリアにおけるクルド人の立場というのは、まさにこの「一難去ってまた一難」という言葉がふさわしいかと思います。ご案内の通り、シリアにおいてはまとまった組織的な武装集団としてのISというのは、その支配した地域をほぼ失ったかに見えます。

 これに一番功労のあったのは、アメリカが地上軍を投入できない代わりにその役割を果たしたシリアのクルド人勢力でした。これはYPG(クルド人民防衛隊)、あるいはPYD(クルド民主統一党)と呼ばれる組織ですが、このシリアのクルド人組織は大きな役割を果たしたにもかかわらず、ドナルド・トランプ大統領のある意味ではas usualというか、いつものようにと言うべきかもしれませんが、アメリカの次の大統領選挙等々に向けて、シリアからのアメリカ軍の撤兵、あるいはアメリカのプレゼンツの最小化のために、この最大の功労者であるクルド人を結局は切り捨てるような決断をしました。

 と申しますのは、アメリカが撤退する、その瞬間にまさに間一髪、間髪を入れず(まさに間を置かずというべきでしょうか)、トルコのエルドアン大統領はシリアへの介入、軍事干渉を発表しました。これはまことに現金なもので、はっきりしているものです。つまり、アメリカがいるからトルコはある意味でアメリカとぶつかりかねないクルドへの干渉はしなかった。しかし、アメリカがいなくなる、あるいはそのプレゼンツが薄くなると、それはトルコがクルド人相手なら、それは自由にクルドを相手に処理できる。そういうことを現実的な判断からしたわけです。


●「テロとの戦い」を理由に軍事介入するトルコ


 そもそもトルコからすると、国内のクルド人勢力が独立国家や高いレベルでの分離ということを成し遂げるのを、大変警戒しています。これと結びついているか、あるいはそれらの援助を受けているシリアのYPGやPYDが、地図をご覧いただきますがこのような形で、ユーフラテスの東側にずっと占領地を拡大した。これはアメリカの力、援助にもよるのですが、このような広範囲にわたってクルドの地域が成立するということはトルコの安全保障やトルコの国内統合にとって大変な脅威になるため、だから介入する、というのが、簡単にいえばエルドアン大統領の言い分です。

 クルド人はそもそもトルコにおいては、クルディスタン労働者党、PKKと言いますが、そのPKKを「テロリスト」と呼んでいるのです。テロリストの友、テロリストが支援している団体はテロリスト。すなわち、シリアを支えているPYDやYPGはテロリストだ。そのテロリストを掃討するために、つまりテロとの戦いのためにトルコ軍は介入する。こういう理屈になるわけです。


●アメリカに切り捨てられシリアのクルド人勢力は窮地に


 そうすると、「アメリカはテロリストたちと同盟を組んだのか」というまことに複雑な問いかけも成されるわけです。テロとの戦いを進めているアメリカは、こういうときは大変便利なことになって、「いや、シリアのクルド人はテロリストではない。それどころか民主化のために尽力した人たちだ」と、そこまで彼らを援助していたのはいいのですが、今度は目的が達せられると、一気にクルド人を見捨てるような行動に走ったということになります。

 すると、この強力なトルコ軍の干渉に対してクルド人はそれに正面から立ちはだかる、阻止するすべはなくなります。ちょっと地図を見てみましょう。青い所ですが、これはすでにトルコ軍、あるいはトルコが支援する武装勢力が占領している地域です。

 そして、ここをよく見ていただきたいのです。トルコが北にあり、それに接する形で茶色の地域が伸びていますね。この地域はトルコの国境沿いですから、トルコ軍がすぐそこに侵攻できる、干渉できる地域がこのように広がって残っていたわけです。


●トルコに対抗するためにクルド人勢力が組んだのはアサド政権


 これは別の地図で少し見てみると分かりやすくなると思います。この地図を少し見ていただきましょう

 よく見ると、微妙に違う色が出てきましたね。それは紫の色のことですが、この紫の色は何か。つまり、北のほうまでで結びついていたクルド人地域がオレンジでしたが、そこに紫色ができたのです。私はカラーのことは詳しくはないのですが、オレンジ色と黄色を一緒に合わせたら紫になるということは、あまり色彩学的にはあり得ないのかもしれませんが、まさにそういうことなのです。

 つまり、ここでトルコの方に丸裸、丸腰で向かわなければならなかったクルド人は、誰と今度は手を組むのかという究極の問題が出てきます...
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