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ISの戦闘と第3次ガザ戦争では歴史的な意味合いが違う

ガザの悲劇、その反復の理由―新しい三つの変化

山内昌之
東京大学名誉教授
情報・テキスト
マフムード・アッバースPLO執行委員会議長
ハマスとイスラエルによる第3次ガザ戦争が続いている。しかし、この戦争がイスラエル南部国境の恒久的な安全保障の確立に成功するとは思えないと語る山内昌之氏。それは、イスラエルとパレスチナとの争いに新しい三つの変化が生じているからだ。果たして新しい三つの変化とは? そこに、ガザの悲劇が潜んでいる。
時間:19:34
収録日:2014/08/20
追加日:2014/09/12
カテゴリー:
≪全文≫

●第3次ガザ戦争は多くの死者を出しながら続いている


 イスラエル軍によるガザへの大規模攻撃は、2008年の第1回、2012年の第2回に続くものであります。今回の第3次ガザ戦争とも言うべきハマスとイスラエルとの争いは、ちょうど日本の終戦記念日にあたる8月15日の時点で、パレスチナ人の側に約2000人の死者を出し、イスラエル人の死者も約70人を数えています。

 私たちからするならば、この犠牲者のあまりの非対称、バランスを欠いた数字の差に驚く人たちは多いかと思われます。この理由の一端は、イスラエル国家の軍隊が世界でも最先端の装備を持ち、そして、豊富な実戦経験を重ねてきた軍隊であるということにあります。他方、ハマスは、非国家主体とも言うべき武装集団から成っている組織でありまして、こうしたハマスとイスラエルという二つの組織の間にある、軍事的な優劣の差が出ていると言ってよろしいかと思います。

 もちろん、イスラエル軍がハマスの陣地や砲台を攻撃すれば、もともと非常に狭く窮屈なガザ地域に押し込められている住民たちがこの戦争に巻き込まれるのは、まことに理の当然と言わなければなりません。


●イスラエルとパレスチナとの争いに新しい三つの変化


 しかしながら、イスラエルは、今回まだ続いているこの第3次ガザ戦争によって、このガザと接する自らの南部国境の恒久的な安全保障を確立することが、果たしてできるのでしょうか。私には、それが成功するとは到底思えません。なぜならば、今回の戦争にも象徴されますように、本質的にイスラエルとパレスチナとの争いの中に新しい変化が生じているからです。

 イスラエルとパレスチナの存在を規定してきた大きな要因として、三つ挙げたいと思います。そして、その三つの要因に大きな変化が生じているのです。

 その第一は、安全保障を担保する軍事的な要因であります。第二は、自らの国家的な存在に関する国際的な正当性(レジティマシー)をめぐる外交的な要因であります。第三は、国民国家のアイデンティティをめぐる歴史的な要因に他なりません。


●ハマスが軍事的劣勢を挽回しても、パレスチナとイスラエルは変わらない


 イスラエルは、隣接するレバノンやヨルダンも含めまして、シリアやエジプトといったアラブの国々を相手に4回の中東戦争を行ってきました。第2回などは、その一部の国であるエジプトとの戦争でしたが、イスラエルはこうした中東戦争を4回にわたってしてきました。

 したがって、国家対国家、国民国家の区分と犠牲に基づいて休戦を行い、そして、休戦協定や講和条約を締結するという形の国家対国家の論理については、イスラエルは経験もあったわけですし、処理してきたわけです。

 ところが、その後、ヒズボラという南レバノンのシーア派組織、あるいは、ガザのハマスという組織が現れました。ヒズボラやハマスのように、市民を巻き込むことも辞さない武装抵抗、あるいは、自爆を辞さない徹底したレジスタンス、こうしたある意味では国家ではない国家主体ともいえる組織は、国家に準じる組織を持ち地域を支配しているけれども、国際的に独立国家としては認知されないし、十分に整備された行政機構を持たないという意味において、彼らを非国家主体と呼ぶのですが、こうした非国家主体の脅威というのは、エジプトやシリアの脅威とは全く違う質のものであります。

 ヒズボラとハマスに共通しているのは、イランの援助を受けつつ、そして、軍事的な対決の経験を重ねながら、イスラエルとの優劣の差、軍事的な劣勢を少しずつ挽回してきたという点にあります。

 しかし、ハマスやヒズボラ、とりあえずはガザのハマスですが、いかにそうした抵抗をし、あるいは、いかに戦(いくさ)を行ったとしても、それによってパレスチナを独立させるということにはなりませんし、あるいは、イスラエルという国家の存在を脅かすということになるわけではないのです。この点は注意しておく必要があります。


●ハマスの狙いはイスラエルに対する抑止力バランスの達成


 そうすると、ハマスは何のためにイスラエルに対してあのような抵抗、あるいは、戦を挑んでいるのかということになります。

 ハマスの方の論理として大きな視点で申しますと、国際世論の中に伝統的にあったホロコーストや、「アンネの日記」に象徴されるようなユダヤ人の悲劇に対する同情、そして、ユダヤ人問題の悲劇を繰り返してはならないという国際世論、これらは大変大事なことでありますが、しかし、その反面、そのユダヤ人の国家のためにパレスチナ人やアラブ人が土地を失い、家屋を失い、家族を犠牲にしていいということにはならないのです。

 したがって、ハマスとしては、こうした国際世論の側に、自分たちに対する理解を増やして...
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