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ウイルスの大流行を招くのはグローバル化の負の側面

ウイルスの話~その本質と特性(3)ウイルスの起源とグローバル化との関係

長谷川眞理子
日本芸術文化振興会理事長/元総合研究大学院大学長
情報・テキスト
ウイルスの起源はどこにあるのか。起源はウイルスごとに異なるが、サル、ブタ、ニワトリ、水鳥などがウイルスに感染し、ヒトと一緒に暮らすことで接触が高まるあいだにそのウイルスが突然変異を起こし、ヒトに感染するようになるケースが多い。特に新しい種に感染するようになったウイルスは強い症状が出やすいので、適切に対処する必要がある。近年、こうしたウイルスの大流行は急速なグローバル化の帰結でもある。(全3話中第3話)
時間:10:20
収録日:2020/02/17
追加日:2020/03/12
カテゴリー:
キーワード:
≪全文≫

●ウイルスの起源はどこにあるのか


 それでは、ウイルスの起源はどこにあるのでしょうか。起源はウイルスごとに異なります。

 例えば、前回お伝えしたHIVの起源は、おそらくアフリカのサルであると考えられています。アフリカには、非常に多くの種類のサルが住んでいます。それら多様なサル類に免疫不全を引き起こすSIV(Simian Immuno-deficiency Virus、サル免疫不全ウイルス)というウイルスの遺伝子の存在が解析によって分かっています。このSIVはHIVに非常に似ているので、HIVはサル起源だと考えられているのです。

 シリーズ内で「ウイルスが感染するためには、突起が合致する必要がある」といいました。もともとのSIVはサルの細胞と合致していましたが、ヒトの細胞とは合致していなかったために、ヒトには感染しませんでした。しかし、サルを食べたり、サルをペットとして飼育したりなどして接触するなかで、サルにいたウイルスがどんどんと変異していき、ヒトの突起と合致するウイルスが出てきてしまい、HIVが発生したと考えられています。

 インフルエンザの場合は、もともとカモやアヒルといった水鳥に感染するウイルスでした。水鳥をニワトリやブタと一緒に飼い、そこでヒトも一緒に住むなかで、まず水鳥からニワトリへ、そしてニワトリからブタへ、さらにブタからヒトに感染するようになったといわれています。インフルエンザウイルスも変化していく進化速度が速いので、例えばカモの突起に合致していたものがどんどんと変異していくうちに、ニワトリ、ブタ、そしてヒトへと感染するようになっていったわけです。つまり、非常に進化速度が速いなかで、いろんな生物とともに暮らしていたことから、ヒトに感染するようになったということです。

 エボラウイルスは、アフリカのコウモリの仲間が起源だといわれていますが、まだ決定的な証拠はありません。


●ウイルスは宿命的に発生している


 上の写真は、私が2003年にカンボジアの田舎に旅行した際のものですが、まさにブタとニワトリとカモが一緒に住んでいるところに、人間が住んでいるのが分かります。これを見た際に、私は「ああ、これがインフルエンザが始まった原風景なのだな」と感銘を受けました。人間はこのようにして暮らしてきたのです。それが良いか悪いかということではなく、このように今存在しているウイルスは、歴史的に、そして宿命的に発生しているのだという感想を持ちました。

 一時期、鳥インフルエンザが問題になりました。もともと水鳥に感染していたインフルエンザは、水鳥には症状が出ません。長い進化の歴史のなかで、共存できるようになったのです。そのカモなどの水鳥から、ニワトリなどの家禽に感染するケースが出るなかで、かなり毒性の強いものが出現しました。それがヒトにも感染するようになり、「高病原性鳥インフルエンザ」と呼ばれて、非常に恐れられるようになりました。長い歴史のなかで、症状が出ずに共存するという関係が築かれることもあるのですが、新しい関係のなかでは毒性が強く出る傾向があります。

 黄熱病の場合には、蚊が媒介してアフリカで発生しています。キャサヌル森林熱(キャサヌル森林病)はマダニに刺されると感染するのですが、これらはインドのリス、コウモリ、サルなどの動物への感染を媒介しており、それらに吸血したマダニに吸血されると感染するという仕組みのようです。

 マールブルグ熱に関しては、コウモリやトリもあるかもしれませんが、サルに感染していたウイルスがヒトに感染するようになり、多くの方が亡くなったという突発的な事故があったことで有名です。

 また、妊婦が発症すると胎児に影響が出るジカ熱やデング熱は、ネッタイシマカという蚊が媒介していて、この蚊に吸血されると発症します。

 このようにさまざまなルートが存在します。ヒトに感染するようになる前に、他の動物の間で蔓延しているので、それがサルなのか、コウモリなのかなど、どの種類の動物なのかも調べなければならないという点で、ウイルス学は非常に難しい学問です。


●エンベロープを持つウイルスへの対処法


 まとめると、生物の長い進化史のなかで、他の生物の細胞機能を乗っ取り、利用して自らを複製するのがウイルスです。これが先に存在していたとは考えにくいので、私の考えでは生物が出現してから、それを乗っ取って利用する、こうした存在が出現したのだと思います。

 ウイルスは宿主の細胞を乗っ取って複製させて外に飛び出しますが、宿主もやられっぱなしではなく、それに対抗します。それが免疫系です。その免疫が働いて戦っている...
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