●今回、ハマスは相当の軍事的打撃を受けるだろう
岡崎 ケリー国務長官は、着任してから1年間は、他のことは何もしないで、とにかくパレスチナ問題だけに取り組んでいました。イスラエルとヨルダン川西岸地区の問題解決、要するに、イスラエルとアラブ側の橋渡しです。結局、今度のことでその取り組みの失敗が明らかになりました。
イスラエルは、今回はハマスの軍事的潜在力を完全に奪うまで、徹底的にやる気です。これが世界に一体どのような影響を及ぼすのかは分かりません。ただ、周辺のアラブ諸国の反応は心配ですが、エジプトが、イスラエル側とまではいかないものの、ハマスのような原理主義者に反対しています。シーシー大統領は、ムスリムブラザーフッド(ムスリム同胞団)に反対しており、ハマスもそのようなものだと思っていますから。ガザ地区の西側は全部エジプトとの国境ですから、エジプトが締めつけを強くすると、武器や弾薬がガザ地区に入らないのです。その対応をアメリカと協力して行っています。
―― エジプトとアメリカが協力しているのですね。
岡崎 だから今回、ハマスは相当の軍事的打撃を受け、再起は難しくなるでしょう。今後、ハマスが武器をどこから手に入れるかいうと、イランしかありません。そこで果たしてイランが武器提供を続けるかどうかが問題となります。
●アメリカ・イランの秘密交渉は今後も続くだろう
岡崎 そこで一番分からないのは、アメリカ・イラン交渉です。アメリカ・イラン交渉もパレスチナ問題で影響を受けているという説もあります。
このアメリカ・イラン交渉は、実はかなり大きな問題です。今度、ヒラリー・クリントンが回想録を出したのです。
―― 先生のレポートにも書いてありました。
岡崎 そう、書いてあります。
―― 先生、ぜひそのお話をお願いします。
岡崎 ヒラリー・クリントンの回想録によると、アメリカ・イランの秘密交渉は、昨年の春、3月か4月頃から始まっています。ヒラリー・クリントンがオマーンのスルタンカブースに会い、カブースの仲介で始まったと書いています。このことは、今までどの新聞にも出ていません。だから、僕は回想録がむしろ暴露記事なのだと思います。
何が問題かというと、アメリカとイランはこれまで、全く敵対してどうにもならなかったはずでした。アフマディネジャド前大統領も反米でした。ところが、アフマディネジャドが昨年の夏に引退して、大統領選挙でローハニ現大統領が勝ちました。
ローハニ大統領が勝つ前は、西側では、たとえローハニが立候補しても、ハメネイ師が穏健派のローハニを資格停止にして大統領にさせないだろうと言われていました。ところが、ローハニが当選してしまったのです。ハメネイ師は特に反対しませんでした。当選したのは昨年の8月です。そこからアメリカ・イラン交渉が急に始まったのです。
だから、今回のことはローハニ大統領が全部行っているというのが世界の常識です。ところが、クリントンの回想録によると、3月から交渉を始めています。ということは、裏ではスルタンカブースとハメネイ師が先に合意して交渉を進めていたのです。
ですから、この秘密交渉は今後も続きます。これだけのチャネルをつくっておいて、アメリカが切るわけがありませんから。クリントンは回想録の最後に、国務長官を去るにあたっての心残りをいくつか書いてあるけれど、その中にアメリカ・イラン秘密交渉も含まれています。
●アメリカとイランの国交回復は日本に追い風となる
岡崎 秘密交渉の結果は全く分かりません。ただ、万が一アメリカとイランの国交が回復すると、中東にとっては大変な事件です。1979年のイラン革命以来だから、もう35年間、国交がなかったのです。そこで急にアメリカとイランの国交が回復したら、一体どういうことになるでしょうか。
まず、日本にとって良いのは、石油の値段が下がることです。湾岸でもう戦争が起きないという見通しになりますから。それから、今まで禁止されてきた欧米からのイランへの投資がどっと入ります。そして、一種のイランブームが起きるでしょう。
これらの動向は日本にとって悪いことではありません。ですから、日本政府がアメリカ・イラン交渉に気が付かなかったために見通しを誤ったと言われることもないでしょう。ですが、湾岸諸国にとっては、もう天地のひっくり返るような話です。
―― サウジアラビアなどは大変なことになりそうです。
岡崎 今までは、バーレーンやカタールなどの王家は全部スンニ派で、反乱軍がシーア派でした。だからシーア派を弾圧していたのです。シーア派政権はシリアのアサド政権とイラクのマリキ政権で、これをイランが裏で指示しています。対抗するスンニ派は、湾岸の王家が指示していると...