●尖閣問題で「中国の意見は違う」と認めたのは日本からの大きな譲歩
習近平さんと安倍晋三さんの会談が今日行われました。2、30分話したらしいです。どういう中身だったのか、細かい話は分かりませんが、しかし、それがどうであったとしても、二人が会ったということだけでも、ものすごく意味が大きいと思います。
この会談が実現したのは、やはり習近平さんと安倍さんがお互いにすごく妥協して、譲歩したからだと思うのです。特に僕が安倍さんを高く評価するのは、一つは尖閣諸島について、これは「日本の固有の領土であって係争地ではない」と言いながらも、4項目の合意文書の中で、「異なる見解を有している」と、「中国の意見は違う」ということを認めました。つまり、日本としては、“legal dispute”はないけれど、それについての“dispute”があることを認めたのです。これは中国から見て、日本からの大きな譲歩です。
●2013年夏の会談交渉は日本から断る形で不調に終わった
中国側がこの譲歩を引き出そうとしたのは、実は去年の夏からです。名前は伏せますが、今の安倍政権の中心人物の一人と去年の夏に会って食事をした時、「カーティスさん、秋になったら日中関係は非常によくなりますよ」と言われました。なぜかというと、「尖閣諸島の問題についての合意ができたから」ということでした。それは、「日本の固有の領土であって係争地ではない」という日本の立場を堅持しながらも、尖閣諸島の問題が日中の間の大きな外交問題、外交案件として存在することは確かだから、トップリーダーが会えば当然、尖閣のことをアジェンダにのせるべきだという合意をする。その上で二人が会うという話を聞いたのです。しかし、その時は何もありませんでした。
今年の4月にまた、その方と東京で会い、食事をしたのですが、座ってすぐに僕は、「去年の夏に“秋にでも習近平さんと安倍さんの会談があるだろう”とおっしゃっていたけれど、どうしたのですか?」と聞いたら、その時に面白い返事が返ってきて、「それは日本の方が断った」と言うのです。
しかし、なぜ断ったのかを言ってくれないので、後になって、その方の上の方に聞いたら、断った理由は、去年の夏に安倍さんが「北京に特使を送って交渉を行って、アジェンダセッティングをして、そして会いましょう」と言ったら、中国の方から「大歓迎します。ただし、その前に安倍首相が公の場で“その特使は尖閣のことをどのようにアジェンダにのせるかということも話し合う”ということを言ってほしい」と返事があったそうです。安倍さんは、「彼が行く前から、私が何をする、しないということは言えません。それは全部交渉で決まるし、だから交渉するのです」というようなことを伝え、そして、その時の特使だった高村正彦さんの北京行きが駄目になったのです。
●際立つ両首脳のフレキシビリティ
しかし、実はこの話はずっと続いていたのです。今年になって高村さんが訪中しましたが、共産党のナンバー3と会って、その時に尖閣の話もしたはずです。
7月には福田康夫元首相が中国に行かれ、具体的な話ではないけれど、大局的な話を習近平さんとして、もちろん約束はしませんけれど、そこで「靖国参拝はないと思います」と言ったはずですし、尖閣の問題も「2カ国間の大きな外交問題としてあるということは安倍首相もよく分かっている」というようなことを言ったに違いありません。
今では公になっていますが、福田元首相が中国に行かれた時に、谷内正太郎さんも、谷口智彦さんもついて行っていますよね。僕は安倍さんがまず、中国にフレンドリーな関係を持っている福田さんを使って、谷内さんも行かせて、これで会談のセッティングをするというのは、尖閣や靖国で十分譲歩するつもりでやったことだと思います。ですから、僕は、安倍さんは思われているよりもフレキシビリティ、柔軟性があって、イデオロギーばかりを主張するような人ではなく、リアリストだと思います。
習近平さんも習近平さんで、例えば歴史問題では、合意文書の4項目に靖国のことはありませんが、面白いのは、英語に訳すとあまりインパクトはないのですが、「“若干”の認識の一致をみた」と、“若干”という言葉を使っていることです。要するに、それは「意見の違いが大きい」という意味なのです。「意見の違いは大きいのですが、それでも会います」という感じでしょう。ですから、習近平さんにしても、そのようなフレキシビリティがあるように感じます。
●日中関係はしばらく好転する
いずれにしても、会ったということは、官僚や他の有力者に「これから話し合い、これからもう少し建設的なことをやれ」という命令ですよ。それと、尖閣を中国としては棚上げ、日本としては少し横に置...