●弱かった頃の中国は「日米同盟は中国のプラスになる」という立場
三つ目の質問は、中国が日米同盟をどう見ているのか、それに対してどう対応しようとしているのか、ということです。
僕は、このあいだ、中国に1週間だけですが行ってきました。北京に3日間、上海に3日間いて、着いた日から帰るまで、ずっとこの質問の答えを探していました。それで、やっと分かったのです。
1971年に、ヘンリー・キッシンジャー氏が中国の北京へ行って、 周恩来氏と、2日間だったでしょうか、ずっと話をしました。
そのときキッシンジャー氏が周恩来氏に言ったのは、「日米同盟がなければ、日本は再軍備して、また軍国主義になる」ということです。そして、「台湾にいる蒋介石を支援し、朝鮮半島にもまた出ていく」と。周恩来氏も全くそうだと思っていたのです。
僕は、その考え方は非常に間違っていると思いますが、 キッシンジャー氏は本当にそう思っていたのです。今も、日本が軍事大国になるのは時間の問題で、だからこそ、日米同盟が、日本の再軍備に対して大きなブレーキになっていると言っています。
ということで、中国は、そのとき初めて「日米同盟は中国のプラスになる」という立場に立って、それ以来、ずっと長い間そういう立場を続けていたわけです。
なぜそうなったかというと、当時、中国はとても弱かったからです。だから、ソ連とのバランスをとるために、毛沢東氏はアメリカのニクソン大統領と握手するわけです。
同時に、台湾や朝鮮半島でいろいろなことがあり、中国は、日本がまだ怖かったのです。その頃は、70年代で、戦争が終わってからまだそんなに時間が経っていなかったから、日本が中国より強くなる可能性は大いにあったわけです。
だから、日本を牽制し、日本がそういう脅威にならないために、日米同盟を認めたわけです。それは、弱かった頃の中国だからです。
●強くなった中国は日米同盟に賛成でも反対でもない
しかし、2014年になると、中国は弱いどころか、世界で二番目に強い国になっています。これは、ものすごい変化です。
では、強い中国は、日米同盟に対してどのように考え方が変わってきたのか。
僕は反対しているだろうと思って、いろいろな人と会って聞いたのですが、日米同盟について誰も「反対です」と言わないのです。
しばらく不思議に思っていたのですが、ようやくその訳が分かりました。
ヘンリー・キッシンジャー氏が 毛沢東氏や周恩来氏と話すのが好きだったのは、中国人が非常に現実主義者だからです。非常にリアリスト、リアリスティックなのです。だから、中国が日米同盟に反対しない理由は非常に簡単で、反対してもなくならないからです。なくならない同盟を反対しても、何のプラスもないと。だから反対しない。それが一つの理由です。
では、日本が再軍備しない、より大きな軍事力を持たないために、日米同盟はあったほうがいいと思っているのかというと、そうでもない。つまり、賛成はしていないのです。
日米同盟があることで、ある程度日本の再軍備を抑える効果はあるけれども、しかし、それよりもこの同盟があることによって、アメリカの軍事力、パワーが、日本をベースにアジアに展開しているではないかと。第7艦隊の港は横須賀だから、賛成するわけにはいかないのです。とはいえ、反対もしないのです。
●中国は日米同盟を弱めるための作戦を取っている
では、中国は、いったい何を考えているか、ということになるのですが、これは、日米同盟を弱めるための作戦なのです。
だから、靖国に対しての中国のリアクションで非常に興味深いのは、国内のリアクションは大したことないということです。デモも一つもなく、日本の製品をボイコットすることもなかったのです。要するに、国内では、大きな問題にはなっていないのです。
ただ、世界的には、特にアメリカとイギリスで猛烈な反日プロパガンダのキャンペーンが始まるわけです。よって、靖国参拝で一番喜んでいるのは中国なのです。これで、アメリカは、中国を信用できませんよということになるわけです。
第2次世界大戦のとき、中国とイギリスとアメリカは同盟国で、敵は日本でした。そのときの軍国主義日本が今、復活しようとしているということを、中国の大使がイギリスの新聞で書いたり、アメリカでも書いたりしました。そうしたら、多分官邸の命令があったと思うのですが、日本の駐米大使、駐英大使も、「いや、違う、悪いのは中国だ」と、子どものけんかのように書くわけです。ハリー・ポッターの中に出てくる悪い人が、「中国は日本が悪いと言ったけれど、悪いのは中国だ」というけんかになるようなことです。
ですから、中国の作戦は、日米同盟に反対ではないのです。しかし、アメリカが日本に対して不信感を持つように、あの手この手...