●官邸は選挙前、トランプ氏に会おうとはしなかった
日本との関係で面白かったのは、安倍首相がドナルド・トランプ大統領に見事に対応してみせたことでした。非常に感心しました。これほど上手にトランプ大統領を喜ばせて、日本が望むことを言ってもらうというのは、大したものです。
大統領選挙の3日前、菅義偉官房長官が佐々江賢一郎駐米大使に、「ひょっとするとトランプ氏が勝つかもしれない」と、示唆したようです。昨年の9月に国連総会があり、安倍首相はニューヨークに行って、ヒラリー・クリントン氏と会いました。2人が握手をしているところを日本の新聞記者に撮ってもらい、日本の新聞全部にそれが載りました。官邸は当時、間違いなくクリントン氏が勝つと思っていました。早くクリントン氏に会って話をした方がいいということになり、トランプ氏には会おうとしなかったのです。
官邸によれば、クリントン氏が会いたいと言ってきたから、安倍首相は会ったのであり、トランプ氏はそう言ってこなかった、ということです。しかし、これはおかしな話です。おそらく、外務省がクリントン氏に安倍首相と会うように頼んだと思うのですが、安倍首相としては、トランプ氏に会おうと思えば、当然会えたはずです。しかし結局は、会いませんでした。
●安倍首相のトランプ大統領への対応は見事だった
ところが、大統領選挙の3日前、あるいはもっと前かもしれませんが、トランプ氏が勝つかもしれないと、官邸は予測を変えました。私もちょうど1週間前から、トランプ氏が勝つのではないかと思っていましたが、官邸でもそのように読んだらしいのです。
そこで佐々江氏が、もしもトランプ氏が勝てば、安倍首相と電話をつないでくれ、とトランプ陣営に伝えました。私が聞いた話では、これを聞いたトランプ氏は大変喜び、「是非」ということになりました。自分でも勝てるとは思っていないのに、日本の総理大臣は自分が当選するかもしれないと思ってくれている、というわけです。
選挙の翌日には、安倍首相がトランプ氏と電話をしています。10日後にペルーのリマで開かれる、APECの総会の帰りにニューヨークに立ち寄り、大統領就任のお祝いをしたい、と伝えたのです。トランプ氏はまた喜んで、トランプタワーで会談をセッティングします。
安倍首相はトランプ氏、イヴァンカ氏、ジャレッド・クシュナー氏、そして最初の国家安全保障会議(NSC)のチーフだったマイケル・フリン氏と会い、とても馬が合ったようでした。60分の予定が90分にまで延びたのです。トランプタワーから下りてきた安倍首相は、フィフス・アベニュー(ニューヨーク5番街)に待ち構える日本の記者団に、こう言います。「彼は本当に信頼できるリーダーだ(“He is a leader I can trust”)」。これは記者団にではなく、トランプ氏に言ったわけですが、それはすぐにトランプ氏に伝わりました。安倍首相の対応は上手だったのです。
●トランプ氏は普通のナルシシストではない
次に2人は、ワシントンとマール・ア・ラーゴ(トランプ大統領の別荘)で3日間、会談しました。トランプ大統領のエアフォースワンでワシントンからフロリダに行き、そこで27ホールのゴルフをします。安倍首相は、きっと疲れていたでしょう。かなり練習して行ったらしいのですが、トランプ氏はゴルフが非常に上手なのです。70台らしいですが、あの年にしてはとてもうまいです。そして食事を何回か一緒にして、その間、安倍首相がトランプ氏にいろいろなことを話したようです。70パーセントは、安倍首相が話していたとも言われています。北朝鮮の問題や中国との関係、アメリカの雇用につながる在米の日本企業の投資についても話したようです。
トランプ氏という人間は、非常にナルシシストです。とにかく、自分が褒められることが大事で、国などよりも自分のことを優先的に考えています。ところが、私が非常に面白いと思うのは、彼が普通のナルシシストではない、というところです。普通のナルシシストは、周りにはイエスマンや自分を褒めてくれる人たちだけを集めて、批判的なことを言われるのを嫌がります。しかし、トランプ氏は病的なまでにナルシシストなのに、周りには非常に気の強い人を集め、人の話をよく聞きます。
実際、安倍首相の話をよく聞くので、首相がトランプの先生のような態度になりました。しかし安倍首相が上手なのは、上から目線ではなく、トランプ氏を立てながら、褒めながら、ごますりをしながら、いろいろと教えたところです。これはお見事です。安倍首相自身の戦略かもしれないし、側近のアドバイザーの戦略のおかげかもしれません。いずれにせよ、それが大変うまくいきました。
●同盟国のリーダーをこれほど喜ばせた安倍首相はえらい
安倍首相の前には、イギリス...