●日米の安全保障関係は非常に良好である
ドナルド・トランプ氏は、選挙のキャンペーン中には日本を批判していました。日本が為替操作をしている。防衛予算をGDPの1パーセントしか使っておらず、アメリカにただ乗りしている。非常にアンフェアなトレードポリシーがあり、非関税障壁も多く、農産物の関税も高い。
しかし、大統領就任後は、こうした日本批判を何一つ言わなくなりました。安倍首相と会談し、共同記者会見も行い、共同声明も出しました。このようにトランプ氏は、言うことをがらっと変えるのです。したがって、今後もまたどのように変わるかは分かりませんから、注意すべきでしょう。
日米関係に限っていえば、ほとんど問題はありません。安全保障に対して、トランプ氏はほとんど関心がない人間です。彼はあくまでも経済、雇用問題を重要視しています。アメリカの会社が、外国ではなくアメリカに投資する。外国の企業は、アメリカに輸出するのではなく、アメリカで生産する。こうした経済政策が、トランプ氏にとっても、彼の支持基盤である、いわゆる中西部のラストベルトの労働階級の人たちにとっても、一番重要なのです。
安全保障政策は、軍人に任せています。国防長官のジェームズ・マティス氏は、海兵隊のジェネラル(大将)でした。国家安全保障会議(NSC)のハーバート・マクマスター氏は、陸軍中将です。また、国土安全保障(Homeland Security)長官のジョン・ケリー氏は、もうひとりのマリンジェネラルです。トランプ氏は大統領に就任すると、日本は防衛政策でアメリカにただ乗りしていると言うのをやめて、すぐにマティス氏を日本に送らせました。
すでに昨年の10月、大統領選挙の前に、マイケル・フリン氏が日本に来て、菅義偉官房長官と会っています。その際、日米同盟はアメリカにとって重要であり、トランプ氏が勝っても何も変わらない、とフリン氏は述べました。マティス氏も同様のことを言っています。したがって、日米の安全保障関係は非常に良好です。問題は北朝鮮ですが、その話はまた後でします。
●農産物の自由化は早い段階でTPPレベルに落ち着く
経済関係も、今のところ日本政府・企業は、非常に上手に対応していると思います。アメリカと日本の間で問題なのが、日本の農産物の自由化です。日本政府は、次のようなことをトランプ政権に伝えているようです。すなわち、日米の2カ国間での農産物の自由化については、すでにTPPの交渉でコミットしたレベルであれば、1年以内に結論が出せる。しかし、それ以上のものをアメリカが求めるのであれば、さらに何年もかかるだろう。その間に、日本の牛肉のマーケットを全部オーストラリアが取ってしまうかもしれない。それでいいのか、といったことです。
つまり、アメリカが日本に対して農産物の自由化で圧力をかけているというよりも、むしろ、TPP以上のレベルの自由化を求めるのであれば、困るのはアメリカだと言って、日本がアメリカにうまく逆の圧力をかけています。したがって、農産物の自由化は結構早くTPPレベルに落ち着くのではないかと、オプティミスティック(楽観的)かもしれませんが、思っています。
●TPPは間違いなく消えた
少なくともマイク・ペンス副大統領が東京に来るまでは、官邸でも、いずれTPP協定にアメリカが加わるだろう、と考えていたかもしれません。確かに、TPPはアメリカが得する協定だと私も思いますが、しかし、トランプ氏が政策を変えることは絶対にないでしょう。TPPは間違いなく消えました。アメリカにとって、TPPは絶対にありえません。
ペンス氏は東京で、TPPについても言及しました。「もしかしたら」と思う人もいるかもしれませんが、やはり絶対にありえません。この政権は、あくまでも2国間(バイ)の経済交渉を中心に考えています。この現実を認めた上で、何をすべきかを日本は考えなくてはなりません。ただ、安倍首相はちゃんとこのことを考えていて、以前はアメリカなしではTPPは意味がないと言っていたのに、今ではTPP11を推進しようとしています。これはアメリカ抜きのTPPで、11カ国による交渉です。
これについてトランプ氏は反対していないので、安倍首相は交渉を開始するでしょうが、おそらくこれは不可能でしょう。というのは、東南アジアのベトナムなどの国にとって、TPPが魅力的だったのは、アメリカという莫大なマーケットにアクセスできるからです。日本にとっては、もうすでにアメリカのマーケットへのアクセスがあるので、東南アジアへのアクセスの方が大事ですが、他の開発途上国のメンバーにとってはTPP11はあまり魅力的ではありません。
いずれにしても、日米の経済関係には、それほど大きなトラブルがあるとは思いません。しかし、まだトランプ政権は混乱状態にあり、安定した政策決...