●民主党にもクリントンにも、なぜ負けたのかという反省がない
最後に、一番大事な話をします。なぜトランプ氏が選挙に勝ったのか。そして、なぜトランプ氏に民主党が負けたのか。最も意味のある問いです。先週、ヒラリー・クリントン氏が講演の中で、敗因を自己分析していました。第1に、ジェームズ・コミーFBI長官が、クリントン氏の私用メールの調査を再開すると発表したことが、マイナスに働いたことです。第2に、ロシアが民主党の本部のメールをハッキングしたことです。第3に、女性であるということがマイナスに働いたことです。この3つの理由で選挙に負けた、というのです。
なぜ負けたのか、その反省は一切ありませんでした。彼女だけでなく、民主党自体にも反省がありません。確かに、女性であるということはハンディキャップになったと思います。しかし、考えてみてください。アメリカ社会で、女性に対する差別・偏見と、黒人に対する差別・偏見では、どちらが強いでしょうか。残念ながら、間違いなく黒人に対する差別・偏見の方が、白人女性に対する差別・偏見よりも圧倒的に強いわけです。
ところが、にもかかわらず、バラク・オバマ氏は大統領選挙に勝ちました。つまり、オバマ氏には、黒人であるというハンディキャップを乗り越えるような、人に魅力を感じさせる何かがあったのです。ところが、今度の選挙の場合、クリントン氏は政策通で素晴らしいと思いますが、人間の心をつかむものがあるとは感じられませんでした。彼女は上から目線で人を見るという印象を、どうしてもアメリカ人に与えてしまいました。
●今のリベラルは、アイデンティティーポリティクスが中心
さらに、最も基本的なことですが、民主党はリベラルの政党です。しかし、リベラルの意味が変わってきており、それはアメリカ社会の大きな変化を象徴しています。昔のリベラル、私が若い頃のリベラルは、労働者や生産階級といった、弱い立場にある人たちのことを考えて政策をつくっていました。これが、私が民主党をずっと支持してきた理由でした。共和党は富裕層を代表する政党であるのに対して、民主党は経済的なリベラルでした。
ところが、今のリベラルの意味はかつてとは全く異なっています。今のリベラルは、英語でいうアイデンティティーポリティクスのリベラルです。例えば、LGBT、レズビアン、ゲイの平等、ジェンダーの...