●トランプ政権はファミリービジネスである
このように、トランプ政権はまだ落ち着いておらず、かなり混乱しています。ホワイトハウスの中にも派閥争い、個人的な闘いがあります。もちろん非常に常識的で、理性的な人たちもいます。
例えば、国家経済会議委員長であるゲイリー・コーン氏は、ゴールドマン・サックスの社長を務めた人で、民主党員です。あるいは、トランプ氏の娘婿、つまりイヴァンカ氏の夫であるジャレッド・クシュナー氏は、父親も民主党員で、そういう意味ではリベラルの側の人です。彼はトランプ氏と同様に、父の跡を継ぎ、ニューヨークで不動産業をやっています。奇妙な話ですが、ますますクシュナー氏の力が増してきています。彼は外交のことも知らないし、政府で経済政策に関係したこともありません。しかし、彼が中心人物になりつつあるのです。
トランプ氏はビジネスをしていた時に、取締役会(board of directors)を一度も設けたことがありません。ファミリービジネス(家族経営)でずっとやってきて、今の政権もその延長線上にあります。例えば、大統領執務室(oval office)のすぐそばにクシュナー氏のオフィスがあり、1階上にはイヴァンカ氏のオフィスがあります。2人とも給料はもらっていませんが、政権の正式メンバーになっているのです。
●「行政国家を崩壊させる」ことがバノン氏の目的だ
経済問題についていえば、クシュナー氏、ゲイリー・コーン氏、あるいはコーン氏の下にはケネス・ジャスター氏といった、理性的な人がいます。ジャスター氏はブッシュ政権にも入っていましたが、アメリカの投資会社ウォーバーグ・ピンカスのエクイティ・パートナーとして働いており、コーン氏の下で国際経済を担当しています。
こうした非常に常識的で、国際経済のことを分かっている人たちがいるかと思えば、スティーブ・バノン氏のようなオルタナ右翼(alt-right)もいます。オルタナ右翼というのは、オルタナティブライトのことで、今までとは違った新しい右翼だということです。バノン氏はその代表格なのですが、恐ろしいほど頭が良い。
バノン氏はトランプ氏を利用して、アメリカで一種の革命を起こしたいと言っています。「行政国家を崩壊させる(“deconstruct the administrative state”)」というのです。国家を造り上げるのではなく、造り上げられて大きくなりすぎた国家...