●3カ月経ったが、トランプ政権は混乱状態のままである
皆さんこんにちは、政治学者・コロンビア大学名誉教授のジェラルド・カーティスです。3月9日から東京に来ています。去年の選挙キャンペーンから大統領就任後、今年(2017年)の3月まで、アメリカでのトランプ現象を見ているのが嫌になってしまって、早く日本に逃げたいと思っていました。ニューヨークでは、トランプ大統領に対してほとんどの人が反対しています。トランプ大統領を支持する人に会うことはめったにありません。ところが、日本に来てみれば、トランプ大統領について話して欲しいと、ほとんど毎日のように言われており、結局、トランプ大統領から逃げられない状況になってしまいました。
そこで今日は、トランプ政権の現状についてお話します。なぜドナルド・トランプという人が大統領になったのか、日本にとって、あるいは日米関係にとって、トランプ政権はどのような政権になるのか、こうしたこともお話します。
トランプ氏が大統領に就任して、ちょうど今日で3カ月です。3カ月もたてば、政権が落ち着いてきて、方向性がはっきりしてくるだろうと思っていたのですが、しかし、逆にますます混乱状態になっています。
●政策の決定過程がものになっていないのが現状である
まず、まだ法案が1つも議会を通っていません。オバマケアを廃止して新しいものつくるはずが、駄目になってしまったし、減税のための税改革をすると言いながら、法案はまだ何も出ていません。規制緩和についても同じです。また、3カ月たったにもかかわらず、政治任用(political appointee)の高官職、約550人のうち、まだ20数名しか指名されていません。つまり、スタッフがいないのです。
昨日、一昨日と、副大統領のマイク・ペンス氏が来日していました。麻生太郎財務大臣と初めてのエコノミックダイアログ(経済対話)を行うためです。日本側はよく準備をして、スタッフがいろいろな資料をつくっていましたが、アメリカ側にはそうしたスタッフがいません。そもそも、ペンス氏は経済の担当ではないのです。来日しても、一般論で話が終わってしまい、具体的な内容に踏み込めませんでした。要するに、ペンス氏と麻生大臣のエコノミックダイアログは、問題を全部先送りにしてしまったのです。これは日本にとっては非常に良い結果となったわけですが、トランプ政権にとってはこれで大丈夫なのか、とも思います。
混乱しているというのは、ペンス氏と麻生大臣のダイアログと同時に、ウィルバー・ロス商務長官が、世耕弘成経済産業大臣とまた別の場所で交渉を行っているからです。このように、政権がまとまっておらず、政策の決定過程としてはものになっていないのが、今の現実です。
●トランプ氏を批判したことがあるかどうか調べられる
スタッフがそろわない原因は、レックス・ティラーソン国務長官が誰かを任用しようとする場合、その人がこれまでトランプ氏を批判したことがあるかどうか、まずホワイトハウスが調べなければならないからです。例えば、ブッシュ政権時の大統領特別補佐官で、共和党主流派の外交専門家、エリオット・エイブラムス氏を国務副長官にする案も浮上していたのですが、彼がトランプ氏を批判する手紙にサインしていたことが分かり、白紙に戻りました。
私の友人の学者で、ブッシュ大統領の時に政権に入っていた人がいます。昨年、共和党系の外交専門家100数名が、トランプ氏は大統領になる資格がないという批判の手紙にサインしました。サインした人たちは政権入りできませんでしたが、私の友人は運良くそれにサインしなかったそうなのです。ですから、彼はまたトランプ政権でも国務省で働くことになるだろうと思っていました。ところが、ホワイトハウスが調べたところ、どうやら去年あるいは一昨年の講演で、彼がトランプ氏を批判していたことが分かったのです。これで、彼もアウトになってしまいました。トランプ氏のことを悪く言っていない外交の専門家は、ほとんどいません。そういう人たちを使わないということは、専門知識がある人を使わないということを意味します。せいぜいHeritage Foundation(ヘリテージ財団)の何人かぐらいしか雇っていません。
●トランプ氏は自分がしたいことを大統領令で行っている
就任後2カ月であればまだ許されるでしょうが、3カ月たってもこうした状況が続いています。ところが、トランプ氏に焦った様子はありません。法案は1つも議会を通していませんが、今のところ、自分がしたいことはほとんど大統領令で行っているからです。例えば、移民を少なくするために、メキシコからの不法移民を追い返すといったことや、金融の規制緩和。オバマ大統領が認めなかったキーストーンのパイプラインの建設推進などを含む、環境政策の方針...